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アイヌ民族のアート【下】 国立歴史民俗博物館

若い感性で伝統を再解釈

熊の手ブックエンド 貝澤徹
熊の手ブックエンド 貝澤徹
熊の手ブックエンド 貝澤徹 (左)iPhoneケース(表) 藤戸康平 (右)同(裏)

 アイヌ民族の伝統文化を紹介する博物館が多いなか、現代のアートに触れることができるのが、国立歴史民俗博物館です。同館では、観光や消費文化によって変容していく民俗の現在にスポットを当てた展示を行っています。

 北海道観光ブームが起こった昭和30年~40年代、アイヌ民族の中にも観光に従事する人が増え、土産物を手がける木彫り作家が腕を競いました。昭和50年代以降、土産人気が工芸品から食品に移ると、アイヌ工芸界は後継者不足に悩まされます。しかし一方で、民族としてのアイデンティティーを見つめ直し、伝統を新しい感性で解釈する若手作家が育っています。

 「熊の手ブックエンド」は、二風谷(にぶたに)に工房を構える貝澤徹さん(59)の作品。土産物でよく見るサケをくわえた熊の全身像ではなく、前脚だけを本立てに見立てたものです。ユニークなアイデアで木彫りを芸術の域まで高めた作品といえるでしょう。

 一方、「iPhoneケース」を手がけたのは、阿寒湖に暮らす藤戸康平さん(38)。腕時計など日用品の木彫りを得意とし、若者を中心に人気を得ています。「日々の生活で使う品々を美しく飾る」というアイヌ民族の伝統的な考えとも通じますよね。

(聞き手・中村茉莉花)


 どんなコレクション?

 アイヌ民族に関する資料は、衣食住の道具や工芸品、関連文献など約700点。2013年にリニューアルオープンした第4展示室では、「現在を生きるアイヌ民族は、どのように文化を再構築しているのか」という観点から、紹介した2点を含む現代の「アイヌアート」や文化伝承に関する映像資料などを常設展示している。博物館の設立は1981年。原始・古代から現代までの日本の歴史や民俗に関する資料約24万点を所蔵する。

《国立歴史民俗博物館》 千葉県佐倉市城内町117。10月~2月は午前9時半~午後4時半(入館は30分前まで)。420円、高・大学生250円。原則(月)((祝)の場合は翌日)休み。問い合わせはハローダイヤル(03・5777・8600)。

北海道大アイヌ・先住民研究センター准教授 山崎幸治

山崎幸治さん

 やまさき・こうじ 1975年生まれ。専門は、文化人類学。現在、アイヌ民族の物質文化と博物館に関する研究を行っている。共編著に「アイヌ・アートが担う新たな役割」「世界のなかのアイヌ・アート」など。

(2017年10月31日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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