読んでたのしい、当たってうれしい。

目利きのイチオシコレクション

西アジア美術【下】 岡山市立オリエント美術館

時を超える装飾へのこだわり

「繋がれた獅子」 イラン、イスファハン 16~17世紀
「繋がれた獅子」 イラン、イスファハン 16~17世紀
「繋がれた獅子」 イラン、イスファハン 16~17世紀 「緑釉貼付文三耳壺(りょくゆうはりつけもんさんじこ)」 イラン 8~9世紀

 西アジアでは、イスラム教が広まった7世紀以降、海上交易が盛んになるとともに、現在のイランなどで様々な王朝が栄え、優れた美術品が生まれました。前回紹介した東洋学者・江上波夫が収集に関わった岡山市立オリエント美術館では、西アジアを中心とするオリエント地域の作品を体系的に見ることができます。

 この「繋(つな)がれた獅子」は日本で見られる貴重なイラン絵画です。描かれた16~17世紀のサファビー朝時代は、新都イスファハンで学問や美術工芸が発達し、特に写本絵画は名品が多数生み出されました。しかし一方、16世紀の半ばに王タフマースブ一世が贅(ぜい)を尽くした写本への興味を失い、お抱えの画家たちは自力で生活することを迫られます。写本でなく、この絵のような1枚の絵なら裕福な人が買ってくれたことでしょう。的確な描写で、輪郭線はカリグラフィーの要素が見られ、細部は毛の筆で描かれたようです。モチーフのライオンはかつて西アジア全域に生息しており、王権や辟邪(へきじゃ)のシンボルとして親しまれていました。

 最後に紹介する壺(つぼ)は、8世紀ごろに海上交易で使われていた運搬容器。大量生産のものなのに、わざわざ手間をかけて表面に装飾を施しているのが、ほほえましいですね。時代を超えて、どちらも西アジアの人々の装飾へのこだわりが垣間見えます。

(聞き手・石井久美子)


 どんなコレクション?

 学校法人岡山学園の理事長だった安原真二郎(1911~80)が、親交のあった東洋学者・江上波夫と深井晋司の指導のもとに収集したオリエントの美術品約2千点を、岡山市に寄贈したのをきっかけに1979年に開館。学術的に系統だった収集が特徴で、オリエントに関する資料約5千点を所蔵している。「繋がれた獅子」と「緑釉貼付文三耳壺」は、2018年7月までの「館蔵品展 オリエントの美に学ぶ」で展示。

《岡山市立オリエント美術館》 岡山市北区天神町9の31(TEL086・232・3636)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。300円、高・大学生200円、小中学生100円。(月)((祝)の場合は翌日)と12月28日~1月4日休み。

東京大東洋文化研究所教授 桝屋友子

桝屋友子さん

 ますや・ともこ 東洋文化研究所所長。東京大大学院修士課程修了。ニューヨーク大大学院博士号取得。専門はイスラム美術、特にイランにおけるイスラム美術を研究。著書に、「すぐわかるイスラームの美術」「イスラームの写本絵画」など。

(2017年11月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

目利きのイチオシコレクションの新着記事

  • 漆芸【下】 東京国立近代美術館工芸館 江戸時代まで漆芸は、寺院や大名の注文を受け、職人が分業で制作していましたが、明治になると、作り手が自ら発想し、全工程を手がける作家活動が盛んになります。

  • 漆芸【上】 首里城公園 漆芸は、漆の樹液を塗料として用い、金や貝で装飾を施す美術工芸品です。漆の木は、日本から東南アジアまでのモンスーン地帯にのみ生育します。

  • 色絵【下】 石川県九谷焼美術館 今回は、色絵の中でも「再興九谷」に焦点を当てて紹介します。

  • 色絵【上】 戸栗美術館 色絵は陶磁器に赤や緑、黄などで上絵付けし、低温で焼成した焼き物の総称です。中国様式を踏襲し、日本では1640年代以降、有田の伊万里焼や、京都の京焼など各地で盛んに作られました。

新着コラム