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マリオンTIMES

「誰もが気兼ねなく旅行を楽しめるように」
闘病中の旅行を医療スタッフがサポート 大阪

医師、介護士、看護師、介護タクシードライバーらが所属するReTabyスタッフ

医師の坂野恵里さん(株式会社ReTaby代表取締役)が、通院中・在宅療養中の人への旅行サービス「ReTaby(リタビー)」を大阪市中央区に昨年5月開業した。病気や障がいに関係なく、誰もが気兼ねなく外出・旅行を楽しめると、患者や介護が必要な人、その家族からの問い合わせや利用者が増えてきている。

 

介護が必要な母との旅行 バリアフリー情報取得や手配に苦労

 

泌尿器科専門医として日々の診療にあたる坂野さん。患者やその家族から、ちょっとした外出や旅行をしてもいいかと相談を受けることが度々あった。坂野さんが許可を出したものの、体調面での不安や事前準備の手間なども心配し、実行に踏み切れない人が多く、結局は諦めてしまうケースも少なくなかった。「当時は、私も患者さんがなぜ諦めてしまったのかまでは思い至りませんでした」と坂野さん。

 

医師の坂野恵里さん(株式会社ReTaby代表取締役)

 

しかし6年前、一つの転機が訪れた。坂野さんの母親が脳出血で倒れ、外出は車いすが必要な状態に。母親との旅行を計画するが、交通・宿泊の情報取得や手配に苦労した。段差やエレベーターの位置、車いす貸し出しの有無、道中のトイレ、さらに宿泊を伴う場合は風呂、食事形態などなど。闘病中・介護中の外出は、事前にチェックが必要なポイントも多い。

「手配が大変な上に、患者さん本人は体調面だけでなく、一緒に行く家族に迷惑をかけたらどうしようと考えてしまう。想像以上にお出かけのハードルが高いと実感しました」と振り返る。そこで、医師として、さらに患者家族の視点から仲間と検討を重ね、闘病中や在宅療養中の人とその家族をサポートする旅行サービス「株式会社ReTaby」の立ち上げにこぎつけた。

 

医療スタッフ付き添いで家族の不安を取り除く

 

ReTabyでは、1泊2日や日帰りなど関西を中心に旅行プランのモデルコースを用意し、利用者の医療度・介護度に応じて介護士・看護師の付き添い、介護タクシーなどの利用を組んでいく。和歌山では高野山でバリアフリー宿坊での宿泊体験、奈良では寺院や飛鳥の史跡巡り、大阪では天神橋筋商店街やあべのハルカスの散策などプランは多彩だ。

 

 車いすや手押し車、杖など様々な移動手段にも対応できる

 

最近は96歳の女性が現在開催中の大阪・関西万博に出かけたケースも生まれている。「日ごろから自宅で介護されている方なら、おむつの交換や食事の介助も慣れていますが、施設に入居されている場合、ご家族も介護の経験がありません。そういった場合は付き添いが必要になってきます。介護士や看護師の付き添いは、知らない土地での介護や医療行為に対する本人・家族の不安を軽減するだけではなく、家族の休息にもつながります。ご本人だけでなく家族も楽しめないと、『また行こうね』という気持ちにはなかなかつながりません」

闘病中や、介護が必要な人が何度も外出や旅行をすることは、本人の治療やリハビリへのモチベーションを上げるだけでなく、認知症や筋力低下予防、健康寿命の延伸にもつながることが期待される。過去の事例では、施設入居者が遠方に住む家族と年末年始を一緒に過ごすためにReTabyを利用。近場のホテルでの宿泊を希望したが、家族はおむつ交換の経験がないため、介護士が隣室で待機し、夜中も対応した。

 

入浴前に付き添い看護師が体調チェックを行う

 

「『施設での面会となると時間も限られていて落ち着かない。不安なところはReTabyにお任せできて、一緒にゆっくりと過ごすことができました』とご家族の方に喜んでいただきました」

 

旅館や自治体の受け入れ態勢もサポート

 

ReTabyでは、医師の坂野恵里さん、総合旅行業取扱管理者兼介護福祉士の資格を持つ大﨑麻佐子さんを中心に、医師・看護師・介護士・介護タクシードライバーといった各分野に精通したメンバーが外出をサポートする。

開業して1年。さらに案内件数を増やすと同時に、付き添いスタッフ、介護タクシーのマッチングや、医療機関・介護施設との連携を強化し、まずは関西圏で運用を確立する方針だ。今年3月には、社会課題をビジネスで解決しようとする関西の女性起業家を支援するプロジェクト「LED関西」(朝日新聞社など協賛)で、500件を超える応募の中からファイナリストの10人の1人に選ばれるなど、注目も高まっている。

今後の展開として、旅館や自治体など、受け入れ側へのサポート強化も見据える。「私たちがどれだけ態勢を整えても、受け入れ先が躊躇するようなことがあっては先に進めない。患者さんを受け入れることが旅館の付加価値になるように、セミナーや相談会を開いて、コンサルティングをして、ノウハウを伝えていきたいですね」

ReTabyのホームページ
https://retaby.co.jp/

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