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街の十八番

山崎屋源七提灯店@浅草

粋な墨痕の江戸手猫提灯

東京都の伝統工芸士でもある山田記央さん
東京都の伝統工芸士でもある山田記央さん
東京都の伝統工芸士でもある山田記央さん 字の内側を塗り込む。上下に枠の「重化(じゅうけ)」を付けて完成。高さ27センチのミニ提灯2900円~

 浅草・雷門近くの路地裏に店を構える山崎屋源七提灯店。享保4(1719)年ごろに創業した。8代目の山田記央(のりお)さん(48)は、問屋から提灯を仕入れ、文字を描く職人。この江戸手描提灯(てがきちょうちん)を20歳のころに、祖父から継いだ。

 江戸時代、浅草には多くの描き職人がいたという。現在、かいわいにはこの店を含め5軒が残る。基本の江戸文字は一画一画、太い線が特徴だ。中に棒を入れて凹凸のある表面を張り、下書きをする。その後、輪郭を面相筆で描き、平筆に持ち替えて内側を埋めていく。かすれは許されない。

 「絵を描く感覚。筆の入り口、曲がり角などが強調され、力こぶのような墨痕が粋。遠くから見ても文字が認識できます」。代々、浅草寺、浅草神社の出入り業者も務める。三社祭の時期は、約3カ月間に約2千個を描く。

 歌舞伎の看板を飾る勘亭流、寄席文字、牡丹(ぼたん)文字など約10種類を描き分ける。現在は、看板や和食店のロゴ、寄席のめくりなどの注文も多い。「機械技術が発達した今、職人による文字の味を伝えていきたい」

(文・写真 石井広子)


 ◆東京都台東区雷門2の9の9(TEL03・3841・8849)。午前9時~午後7時。(日)(祝)休み。浅草駅。

(2018年10月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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