飛行機が苦手で、原則、陸路で移動するため、遠方に出かけるときはだいたい早朝出発・深夜着となる。時間がかかる、それ自体は決して不便とは思わない。ただ困るのはあまりに遅い時間の到着により、見知らぬ土地で食事を取り損ねることがしばしば発生する事実だ。
そうなると頼みの綱はコンビニで、駅前の店舗などに駆け込んで、夕食を調達する。地元にいるときはほとんどコンビニを使わないのでそれはそれで目新しいし、その地の名産やローカル食を置いていることも案外多くて、棚を見ているだけで面白い。
ある時、東京を経由し、最終新幹線で富山に到着した。当然ながら、近隣の飲食店は閉まっている。富山といえば美味しい海産物だが、しかたがない、これは明日のランチに取っておこうと思いながら適当なコンビニに入り、わが目を疑った。
――昆布パン
そんなラベルが張られた白いパンが、レジのそばに置かれていたからだ。
昆布もパンも知っている。ただそれらの組み合わせが、どうにも想像ができない。いや、待て。たとえば馬肉を「桜」、ゴボウとタンパク質の甘辛卵とじを「柳川」と呼ぶように、この場合の「昆布」は何かの別称かもしれない。
だがそう思ってパッケージをひっくり返せば、原材料名の箇所には、「ミックス粉」「小麦粉」「糖類」に引き続き、しっかり「昆布」と記されている。しかも「北海道産」との明記つき。もはや疑いようのない、昆布の入ったパンだ。
よし、試してみよう、とサラダやゆで卵とともに買い込み、ホテルの部屋でかぶりつく。長方形を斜めに切り分けた縦長の台形が、袋の中に四つ。白っぽい見かけに反して、意外に重量ともっちりとした歯ごたえがある。塩味、そして昆布の風味。なるほど、まぎれもない昆布パンだった。
ここまでお読みくださった読者の皆様の中には、「パンと昆布は合うのか?」と疑問を抱かれる方もおいでだろう。結論から言えば、これがまったく違和感がない。前々回のこのコーナーで長野のおやきについて触れたとき、「小麦粉+総菜類という点では、おやきもきんぴらホットサンドもさして変わりがない」とわたしは記した。まさにそれと同じだった。
それにしてもなぜ昆布とパンという組み合わせが誕生したのか。実は富山県は江戸時代、関西と東北・北海道を結ぶ北前船の寄港地の一つだった。そのため北海道で取れる昆布は、富山県一帯では大変親しまれている食材で、魚の昆布締めや昆布巻のかまぼこなど、昆布を利用した郷土料理も数多い。富山市の一世帯当たりの昆布に対する年間支出金額は、全国平均の二倍以上とのデータもあるそうだ。
昆布パンはとある小学校から県内の製パンメーカーに、そんな富山県の歴史を学ぶ授業の一環として昆布を使ったパンを作ってほしいとの相談が来たことから開発されたという。それが一過性のものではなく、その後も商品として根付いたのは、昆布に親しみの深い富山の郷土性と昆布パンそのものの美味しさに寄るところが大きいのだろう。
なおその後、富山県内のスーパーで探したところ、昆布梅パン・昆布チーズパンも見つけることができた。和洋どちらの要素を強くしても違和感がないのも、このパンの特徴の一つと言ってもいいかもしれない。甘みはほとんどないので、スープやおかずと合わせても食べやすい。パンの割に日持ちも長いので、わたしは以来、富山に出かけると、このパンを土産物として買い求めている。
「なぜ昆布パン?」
とかつてのわたしのように目を丸くする友人知人に、美味しさと由来を都度語る。ただその地の味を持ち帰るだけではなく、歴史や文化を丸ごと差し上げられるのでお勧めだ。
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澤田 瞳子 さわだ・とうこ 1977年生まれ。同志社大文学部文化史学専攻卒業、同大学院博士前期課程修了。2016年『若冲』で親鸞賞、21年『星落ちて、なお』で直木賞受賞。『火定』『春かずら』など著書多数。 |
![]() Ⓒ富本真之 |