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ひとえきがたり

志津川駅(宮城県、JR気仙沼線)

モアイが見つめる未来は

仮設商店街を見守るモアイ像。赤いバスのかげに「駅舎」がのぞく
仮設商店街を見守るモアイ像。赤いバスのかげに「駅舎」がのぞく
仮設商店街を見守るモアイ像。赤いバスのかげに「駅舎」がのぞく 地図

 バスの車窓に更地が広がる。忙しく働く重機とダンプカーを目で追っているとかまぼこ形の小さな「駅」に到着した。

 東日本大震災で高さ15メートルを超える津波に襲われ、駅舎は流された。翌年、駅は約1キロ内陸の仮設の「南三陸さんさん商店街」に移され、バス高速輸送システム(BRT)の駅として仮復旧した。

 駅の50メートル西に、商店街を見つめてモアイ像が立つ。高さ3メートル、重さ2トン。震災で倒壊した初代に代わって、2年前にチリから贈られた。同国との交流は1960年のチリ地震で津波の被害を受けたのがきっかけだった。「同じ海の民。今こそ力にならなくてはと考えてくれたそうです」と南三陸町観光協会の佐藤正文さん(58)。門外不出というイースター島の石で造られ、白サンゴと黒曜石で目を入れられて「マナ=霊力」を宿す。「モアイは現地の言葉で未来に生きるという意味。復興をめざす町にぴったりです」

 在日チリ大使館の関係者からは当時、「みちはとてもながい なきおわたらあるいてください」との手紙が寄せられた。

 商店街で写真館を営む佐藤信一さん(49)はあの日、カメラバッグ一つを手に店を飛び出して命を拾った。被災した町を写した写真集は4冊を数える。その1冊に収めたモアイの写真に言葉を添えた。「モアイはすでに、南三陸の未来が見えているのかもしれない。それはきっと青い海、緑の大地、賑(にぎ)わいの街、そして未来の子供たちの笑顔」

文 中村さやか撮影 馬田広亘 

沿線ぶらり

 JR気仙沼線は前谷地駅(宮城県石巻市)と気仙沼駅(気仙沼市)を結ぶ72.8キロ。津波の被害を受けた柳津~気仙沼間55.3キロをBRTがつなぎ、鉄路を整備した専用道などを走る。

 志津川駅の3駅隣、歌津駅にも10店舗が軒を連ねる伊里前福幸商店街があり、海産物や地酒、土産品などを買える。明治から昭和にかけて日本屈指の金山として栄えたという大谷鉱山の歴史を紹介する大谷鉱山歴史資料館(TEL0226・44・3180)へは、大谷海岸駅から車で10分。トロッコや金鉱石などを展示している。無料。

 

 興味津々
手のひらサイズのモアイ像
 

 南三陸さんさん商店街の土産店では手のひらサイズのモアイ像(2千円)を販売、収益の一部を復興に充てている。震災前ににぎわった海水浴場、サンオーレ袖浜の砂を、手作業で固めた限定品。問い合わせは南三陸モアイファミリー(0220・57・4066)。

(2015年3月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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