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ひとえきがたり

鵯越(ひよどりごえ)駅
(兵庫県、神戸電鉄有馬線)

急勾配、下る下る通勤電車

駅を出るとすぐにトンネルだ。急な勾配を下れば神戸の市街地が広がる
駅を出るとすぐにトンネルだ。急な勾配を下れば神戸の市街地が広がる
駅を出るとすぐにトンネルだ。急な勾配を下れば神戸の市街地が広がる 地図

 「鹿のかよはう所を、馬のかよはぬやうやある」。平安時代末の1184年、源義経は高さ90メートルの崖を3千余騎とともに駆け下った。「平家物語」が伝える「鵯越の逆落とし」だ。その名を冠する無人駅は標高134メートル。神戸の市街地をはるかに見下ろす六甲山地の西部にたたずむ。駅の前後は50‰(パーミル)の勾配。電車が1キロ進むごとに50メートル上り下りする急傾斜だ。

 標高357メートルの有馬温泉駅と神戸の中心部、標高0メートルの湊川駅を結ぶ有馬線は全国の通勤電車の中でもとびきりの急勾配路線だ。神戸電鉄は大井川鉄道や箱根登山鉄道なども加入する「全国登山鉄道‰会」に名を連ねる。「早めにブレーキをかけたり、ラッシュ時の下り勾配ではとくに緊張しましたね」と10年間運転士を務めた山口勝昭さん(55)。現在は鵯越駅を管轄する鈴蘭台駅の駅長だ。

 義経が駆け下った崖の位置は、実は定かでない。兵庫歴史研究会の梅村伸雄さん(82)は、鵯越が摂津・播磨両国の境にあり、崖のふもとに平家の陣があったという「平家物語」の記述から、駅の南東にあったとみる。「起伏の激しい六甲全山縦走路をたどって以来、常識外ともいえる義経の戦略にひかれてきました」

 義経から約800年経って、標高300メートル前後の沿線も住宅地となった。急勾配に備えてブレーキ性能を強化した電車が今朝も、通勤通学客を乗せてぐんぐん下っていく。

文 土田ゆかり撮影 渡辺瑞男 

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 神戸電鉄有馬線は、神戸市の湊川駅と有馬温泉駅を結ぶ22.5キロ。沿線の駅から出発する「神鉄ハイキング」を実施。コースは月替わりで、駅長が案内する「駅長ハイク」も。問い合わせは神鉄グループ総合案内所(078・592・4611)。

 「関西の奥座敷」と呼ばれる有馬温泉と六甲山上を12分で結ぶ六甲有馬ロープウェー(TEL891・0031)は、有馬温泉駅から徒歩15分。片道1010円、6~11歳510円。ロープウェーの終点近くの六甲ガーデンテラスには、パノラマの展望スペースや飲食店がある。

 

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森林公園

 駅から車で約10分のひよどりごえ森林公園は、面積約530ヘクタール。起伏の多い山歩きコースと神戸の市街地を見下ろせる散策コースに分かれ、源平合戦ゆかりの地を見下ろすことができる。問い合わせは神戸市公園緑化協会(078・795・5656)。

(2015年3月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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