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ひとえきがたり

日立駅(茨城県、JR常磐線)

ガラス越しに広がる海の青

駅のオープン直前に起きた東日本大震災でも、ガラスは1枚も割れなかった。構内のカフェは朝晩の眺めが評判=茨城県日立市幸町
駅のオープン直前に起きた東日本大震災でも、ガラスは1枚も割れなかった。構内のカフェは朝晩の眺めが評判=茨城県日立市幸町
駅のオープン直前に起きた東日本大震災でも、ガラスは1枚も割れなかった。構内のカフェは朝晩の眺めが評判=茨城県日立市幸町 地図

 眼下に太平洋の青が広がる。駅構内の展望スペース。幼い娘を肩車した男性や手をつないだ若い男女が、歓声を上げ、吸い寄せられるように窓際に歩み寄る。

 2011年4月、橋上駅舎としてリニューアルした。デザイン監修は、日立市出身で建築家の妹島(せじま)和世さん(58)。以前の駅舎からは海が望めなかったが、「海と山に挟まれて、どこからでも海が見えるのが日立の魅力」と、開放的なデザインを心がけ、全面ガラス張りにした。新駅舎はグッドデザイン賞や鉄道関係の国際賞であるブルネル賞などを受賞。「来るたびに表情の違う海を味わってほしい。それに水平線を見ていると、地球の丸さまで感じられるでしょ」

 市職員の稲田博司さん(57)と菊池稔明(としあき)さん(42)は、構想段階から事業に関わった。メジャーを片手に全国の駅を回り、妹島事務所やJRの職員らと、朝から晩まで会議室にこもった。ユニバーサルデザインの実現のため、身体障害者との意見交換を幾度となく重ねた。

 1980年代以降、市の人口は減少しているが、「まちの顔として、皆が誇れる新しい拠点になれば」と稲田さん。駅構内で土産物の販売を始めると、地元の商店も商品開発などに力を入れ始めた。メディアに取り上げられる機会も増え、最近は海外からのツアー客も訪れる。

福島から来たという女性二人組が海にカメラを向けていた。「私たちの街にもこんな駅があったらな」

文 中村茉莉花撮影 谷本結利 

 沿線ぶらり  

 JR常磐線は、日暮里駅(東京都荒川区)と岩沼駅(宮城県岩沼市)を結ぶ343.1キロ。一部の列車は上野東京ラインとして品川まで乗り入れる。

 太平洋が一望できる日立市かみね動物園(TEL0294・22・5586)は日立駅からバスで10分。餌やりなどを通して動物と間近にふれ合える。510円、4歳~中学生100円。

 水戸駅からバスで20分の「偕楽園」では、9月1日(火)~23日(水・祝)と27日(日)、水戸の萩(はぎ)まつりを開催。27日には野点(のだて)なども。問い合わせは水戸観光協会(029・224・0441)。

 

興味津々
天狗像

 駅構内の「シーバーズカフェ」(TEL0294・26・0187)での一番人気は、エッグベネディクトパンケーキ。パンケーキにポーチドエッグをのせ、卵黄のソースをトロリとかけたオリジナルメニューだ。1100円。午前7時~午後10時。

(2015年8月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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