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ひとえきがたり

勝山駅(福井県、えちぜん鉄道勝山永平寺線)

人と鉄道をつなぐカフェ

常連の女性客がくつろぐ午後のカフェ。駅舎が国の登録有形文化財のため、サイホンの熱源はハロゲンランプだ=福井県勝山市遅羽町
常連の女性客がくつろぐ午後のカフェ。駅舎が国の登録有形文化財のため、サイホンの熱源はハロゲンランプだ=福井県勝山市遅羽町
常連の女性客がくつろぐ午後のカフェ。駅舎が国の登録有形文化財のため、サイホンの熱源はハロゲンランプだ=福井県勝山市遅羽町 地図

 晴れたシルバーウィーク初日の午後。レトロな木造駅舎をのぞくと、コーヒーの香りが鼻孔をくすぐった。

 勝山駅内に「えち鉄CAFE」ができたのは、駅開業100年の2014年のこと。えちぜん鉄道の社員が運営する。コーヒーは注文を受けてから豆をひき、サイホンを使って抽出する本格派だ。「ずぶの素人が始めました」と新規事業担当の岡田英俊さん(37)は苦笑する。

 駅は福井県が誇る県立恐竜博物館の玄関口だ。当初、カフェを利用するのは、駅からバスに乗り換えて博物館に行く観光客がほとんどだった。しかし、オープンから1年が過ぎ、レトロな雰囲気の店内とコーヒーの味を目当てに、電車に乗らない地元の人も訪れるように。「でも、まだまだ」と岡田さんは首を振る。「カフェは駅と地元の人をつなぐ存在。人を呼べる駅にしたい」。新メニューを考案したり、イベントを企画したり、岡田さんは、次の一手を模索している。

 博物館からのバスが到着すると、20人ほどの客が駅に押し寄せた。カフェの12席はすぐに埋まり、注文が飛ぶ。発車までの猶予は約20分。3台のサイホンがフル稼働し、次々と注文をさばいていく。発車3分前、最後の女性客がテイクアウトのコーヒーを手に電車に乗り込んだ。

 「ケーキを注文してもいい?」。遠慮がちに声をかけたのは、発車を見届けた地元の常連客だ。カフェに、ゆったりとした時間が流れ始めた。

文 塩田麻衣子撮影 楠本涼 

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 えちぜん鉄道は福井駅(福井市)と勝山駅(勝山市)を結ぶ勝山永平寺線と三国芦原線の計53キロ。9月27日、福井駅~福井口駅の約800メートルで新幹線高架橋を走る仮線運行を開始(専用高架橋完成までの約3年間を予定)。

 福井県立恐竜博物館(TEL0779・88・0001)は勝山駅からバス15分。昨年野外恐竜博物館が開館し、化石発掘体験も(11月3日まで、大人1200円ほか、入館料は別途)。同館ホームページで要予約。永平寺口駅からバス15分の曹洞宗大本山永平寺(TEL0776・63・3102)は、今年のミシュランの旅行ガイドにも登場。

 

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えち鉄ブレンドとモンブラン

 人気メニューえち鉄ブレンド写真手前、430円。同奥はモンブラン、400円)は、1日で50杯の注文が入ることも。苦みと酸味は控えめ、後味に甘みが出るのが特徴だという。午前10時~午後5時。(水)休み。問い合わせはえち鉄CAFE(070・1350・9357)。

(2015年10月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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