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ひとえきがたり

和倉温泉駅(石川県、JR七尾線)

のれんに込めた幸せ願う心

出発前の「花嫁のれん」を乗客がカメラにおさめる。運行初日の切符は発売直後に完売した=石川県七尾市石崎町
出発前の「花嫁のれん」を乗客がカメラにおさめる。運行初日の切符は発売直後に完売した=石川県七尾市石崎町
出発前の「花嫁のれん」を乗客がカメラにおさめる。運行初日の切符は発売直後に完売した=石川県七尾市石崎町 地図

 加賀友禅と輪島塗をイメージした優美な2両編成の車体がホームに入ると、詰めかけた人たちから歓声が上がった。

 北陸新幹線開業に沸く金沢と能登を結ぶ新たな足として3日、運行が始まった観光列車「花嫁のれん」。北陸の伝統美を表現しようと、内装に輪島塗の図柄や金沢金箔(きんぱく)をあしらった。車内サービスの食事は石川県産の食材が中心。能登野菜を使ったスイーツを手がけたのは、七尾市出身のパティシエ辻口博啓(ひろのぶ)さんだ。

 「花嫁のれん」の名は、能登に江戸末期から残る婚礼の風習から付けられた。花嫁は結婚式の当日、嫁入り道具として両親が仕立てたのれんを嫁ぎ先に持参。仏間の入り口に飾り、それをくぐって花婿の先祖をお参りする。「娘が嫁ぎ先になじめますように」と、のれんに込められた親心は、「女性の幸せを願う」という新列車のコンセプトに形を変えた。

 乗車する和装の客室乗務員3人のうち1人は、「おもてなし」が旅行業界で高く評価される老舗旅館「加賀屋」の客室係だ。一番列車で到着した大阪府の室田みよ子さん(67)は、「やわらかい物腰に感動した。幸せを運ぶのれん効果にあやかりたい」と声をはずませた。

 改札を出ると、花車が描かれた花嫁のれんが置かれていた。企画した和倉温泉観光協会の担当者は、「のれんをくぐって能登の人々の優しい心を感じてもらえたら」と言う。駅舎を吹き抜ける風に、のれんが静かになびいた。

文 曽根牧子撮影 伊ケ崎忍 

 沿線ぶらり  

 JR七尾線は、津幡駅(石川県津幡町)と和倉温泉駅(七尾市)を結ぶ59.5キロ。

 金沢駅―和倉温泉駅を約80分で結ぶ花嫁のれんは、特急列車として(土)(日)(祝)を中心に1日2往復する。食事は4日前までに要予約(TEL0088・24・5489)。

 カフェ併設の辻口博啓美術館ル ミュゼ ドゥ アッシュ(TEL0767・62・4000)は、和倉温泉駅から徒歩20分。同駅からのと鉄道で3駅目、能登中島駅が最寄りの能登演劇堂(TEL66・2323)では、10月31日から舞台設計を監修した俳優・仲代達矢さん率いる無名塾の公演がある。

 

興味津々
花嫁のれん

 和倉温泉駅に花嫁のれんが設置されるのは午前9時~午後5時。360年以上の伝統を誇る田鶴浜建具を使った仏間の入り口が再現され、加賀友禅を基調にしたのれんが掛けられている。

(2015年10月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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