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ひとえきがたり

バルーンさが駅(佐賀県、JR長崎線)

ふうわり、気球が浮かぶ臨時駅

色とりどりの熱気球が空を彩る。ホームの真上を越えていくことも=佐賀市嘉瀬町
色とりどりの熱気球が空を彩る。ホームの真上を越えていくことも=佐賀市嘉瀬町
色とりどりの熱気球が空を彩る。ホームの真上を越えていくことも=佐賀市嘉瀬町 地図

 空が白み始めた朝6時過ぎ、防寒着を着込んだ乗客たちが、満員の車内からどっとホームにあふれ出た。

 アジア最大級の熱気球大会、佐賀インターナショナルバルーンフェスタに合わせ、会期中の5日間だけ設置される臨時駅だ。開設は1989年。今年は多い日で、特急を含め164本が停車。田んぼが広がるのどかな佐賀平野の駅を、3日までの営業期間に約15万人が利用した。

 「佐賀県人はあの煙突の煙がまっすぐ立ちのぼると、今日の風なら気球が飛べると分かるんです」。ホームから見える工場を指さし、佐賀鉄道部長の春田寿さん(56)が教えてくれた。普段は何もないホームの脇に、10月末になるとプレハブの切符売り場やトタン屋根の改札が現れる。人力のアナログ駅だと笑いながらも「駅員が赤い手旗を持ちホームに整列する姿は、結構格好いいでしょう」。

 駅は、鉄道ファンにも人気だ。近くの土手からカメラを向けていた奥平浩明さん(53)は岡山県からやってきた。狙いは人気列車「ななつ星」と駅とを絡めたショット。「まあまあかな」。照れながら自信の一枚を見せてくれた。

 駅前で米や野菜を育てる古賀康嗣(こうじ)さん(62)は「人通りの少ない土地がにぎやかになって、楽しかですね」と、にっこり。仕事の手を止めて気球を眺めることもある。「モコモコと入道雲が盛り上がるような感じで、すごかですよ」。いつもは佐賀駅近くの自宅から車で通うが、5日間だけの「最寄り駅」の珍しさに一度だけ電車で来たことがあると、笑った。

 6時45分、競技が始まり、駅前の河川敷から約100機の気球が次々に空へ舞い上がった。風を操り流れていく気球を目で追っていると、ホームにまた一本、列車が滑り込んできた。

文 中村さやか撮影 桐本マチコ 

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 JR長崎線は鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)と長崎駅(長崎市)を結ぶ148.8キロ。バルーンさが駅は、佐賀駅の二つ隣にある。

 バルーンミュージアムサテライトは、佐賀駅から徒歩約15分。来年10月にサテライト近くに開設する予定のバルーンミュージアムの開館まで、気球の仕組みの紹介やグッズ販売をする。選手が乗り込むバスケットの展示も。平日午前9時~午後5時。問い合わせは佐賀市観光振興課(0952・40・7111)。

 佐賀市の伝統工芸、肥前びーどろを制作する副島硝子工業(TEL24・4211)は佐賀駅から車で10分。気球をデザインした商品も並ぶ。

 

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インターナショナルバルーンフェスタ

 前身の大会を含め、今年36回目の佐賀インターナショナルバルーンフェスタには、20カ国・地域の127機が参加した。その日の天候や風を判断し、競技内容は直前に発表。気球の上から地上の狙った場所にマーカー(砂袋)を落とす競技などがある。

(2015年11月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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