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ひとえきがたり

茅沼駅(北海道、JR釧網線)

冬のツル 守って半世紀

例年よりも雪が少ないヨシ原で、タンチョウの家族が餌をついばんでいた=昨年12月、北海道標茶町
例年よりも雪が少ないヨシ原で、タンチョウの家族が餌をついばんでいた=昨年12月、北海道標茶町
例年よりも雪が少ないヨシ原で、タンチョウの家族が餌をついばんでいた=昨年12月、北海道標茶町 地図

 釧路湿原を走る列車が茅沼駅に近づくと、車内に歓声が上がった。手にしたスマートフォンのカメラが向けられた先は、一羽の大きなタンチョウ。

 もともと駅の周辺は、タンチョウの冬場の飛来地だった。冷害で餌が不足した1964年、当時の駅長が餌をやりはじめたのがきっかけだ。翌年からは、駅に向かう乗客へのサービスとして、タンチョウが飛来するとホームに黄色い旗を揚げたという。茅沼駅は「鶴の来る駅」として全国に知られていった。

 86年に駅が無人化されてからは、餌やりは一時近隣住民が行ったが、88年に釧路市在住だった田中耕三さん(67)が引き継いだ。田中さんは餌をやるために駅の横にペンションを建て、2010年に休業してもタンチョウが来る11月から3月ごろまで毎日餌をやり続けている。餌やりを6時24分の始発電車前に済ませるのは、タンチョウが線路を渡って催促に来ないための思いやりだ。田中さんは給餌(きゅうじ)ではなく「給仕」だと語る。「タンチョウがすむ環境を壊したのは人間。そのつぐないをしたいだけ」。タンチョウは見せ物ではないという思いもあるという。駅には、乗客がホームから降りて近づかないよう注意する看板が立つ。

 毎年やってくるタンチョウは28年前と変わらない3、4家族。朝から夕方ごろまで餌場でくつろぐ。「年に数回、餌箱の中にきれいな羽根が落ちてるんだ。恩返しかな」と笑った。

文 西村和美撮影 伊ケ崎忍 

 沿線ぶらり  

 JR釧網線は網走(北海道網走市)と東釧路駅(釧路市)を結ぶ166.2キロ。

 1月30日~2月28日の計42本、釧路-標茶駅間をSL冬の湿原号が走る。運行は1940年製C11型機関車。地元ガイドによる説明も。片道1890円。時間は問い合わせを。全席指定。問い合わせはJR北海道釧路駅(0154・24・3176)。

 標茶駅から徒歩8分にある有名店ジンギスカン専門店のざき(TEL015・485・2777)。ラム肉の味を引き立てるたれで漬けた「味付ラム(しょうゆ味)」(500グラム、700円)など。通信販売も。

 

興味津々
憩いの家かや沼

 駅から徒歩10分の憩の家かや沼(TEL015・487・2121)は釧路湿原国立公園内で唯一、源泉掛け流しの天然温泉を楽しめる温泉宿泊施設。近くまでエゾシカやタンチョウなどの野生動物がやってくる事も。日帰り入浴は中学生以上450円、小学生200円。

(2016年1月12日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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