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ひとえきがたり

島越(しまのこし)駅
(岩手県、三陸鉄道北リアス線)

流された集落 再び集う場に

防潮堤を兼ねた築堤の上を列車が走る。流された集落の跡に夏草が茂っていた
防潮堤を兼ねた築堤の上を列車が走る。流された集落の跡に夏草が茂っていた
防潮堤を兼ねた築堤の上を列車が走る。流された集落の跡に夏草が茂っていた 島越駅

 今年4月に全線復旧したばかりの三陸鉄道に乗りにきた鉄道ファンや家族連れが、新築の香りがする駅舎からホームに出てきた。「列車が走る姿を見るだけで感動するなんて」と年配の女性。人影のない海岸に波が打ち寄せる。

 7月27日、待望の新駅舎で窓口営業が始まった。青いドームが印象的だった前の駅舎は東日本大震災の津波で跡形もなくなり、線路は高架ごと破壊された。三鉄の駅の中でも最大級の被害だった。

 駅周辺にひしめくように立っていた100軒以上の家も駅舎とともに流された。住人は付近の仮設住宅などにちりぢりになり、高台にある早野さち子さん(62)の家だけが残された。「引っ越さないのかと聞かれることもありますが、やっと建てた家ですから。でも、三鉄が戻ってこなかったら、どうだったかな」

 1984年の三鉄開業以来、早野さんはこの家から駅を見てきた。海水浴客でにぎわう夏場、駅に備えられたシャワーの使い過ぎで家が断水して困ったこともあったという。「今思うと、幸せな悩みだったのね」

 高台に移転した新しい駅舎はドームと屋根を銅でふき、外壁にはれんが調のタイルを使った。「東京駅のイメージですかと聞かれますが、そんなに立派じゃない」。駅舎を管理する田野畑村役場の工藤光幸さん(51)が笑う。「でも、誰に見せても恥ずかしくない駅にしたかった。自分たちも自信が持てますから」

 駅前でショベルカーが作業する音が響く。村は来年の夏を目標に、海産物加工場も入るコミュニティーセンターや盆踊りもできる広場を造る予定だ。「それでこの駅は本当の完成です。津波でばらばらになった集落の人たちが、再び集まれる場所になれば」

文 河瀬久美撮影 上田頴人 

沿線ぶらり

 三陸鉄道北リアス線は、宮古駅(岩手県宮古市)と久慈駅(久慈市)を結ぶ71キロ。

 震災後休止していた北山崎断崖クルーズが今夏から運航を再開。島越駅から徒歩10分の島越漁港から、1億1千万年前の地層や高さ200メートルの断崖を眺める約50分のコースを巡る。11月初旬まで。1460円。問い合わせは観光船発着所(0194・33・2113)。

 久慈駅や堀内駅は、昨年放送されたNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」のロケ地。久慈駅すぐのあまちゃんハウスもぐらんぴあ・まちなか水族館には衣装や小道具、セットなどが展示されている。問い合わせは久慈広域観光協議会(53・5756)。

 

 興味津々
 
 

 新駅舎から南に100メートルほど離れた旧駅舎跡地に、宮沢賢治の詩「発動機船 第二」の碑が残っている。海に対して直角に立っているため津波の被害をまぬかれた。同じく流されずに残った旧駅舎の階段の一部とともに、今後も保存される予定だ。

(2014年8月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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