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ひとえきがたり

但馬三江(たじまみえ)駅
(兵庫県、北近畿タンゴ鉄道宮津線)

そば打つ音は活性化を願う音

「昔の面影がある駅舎は宮津線ではもうここだけ」と中貝稔さん(中央)。右奥の窓は元切符売り場。その向こうが待合室だ
「昔の面影がある駅舎は宮津線ではもうここだけ」と中貝稔さん(中央)。右奥の窓は元切符売り場。その向こうが待合室だ
「昔の面影がある駅舎は宮津線ではもうここだけ」と中貝稔さん(中央)。右奥の窓は元切符売り場。その向こうが待合室だ 地図

 コウノトリが時に舞い降りる豊岡市の山里。ひっそりとたたずむ無人の駅舎に隔週の週末、手打ちそばの「ぽっぽや」が開く。晩秋の肌寒い朝、京都府京丹後市から来た70代の夫婦が開店を待ちわびていた。約40分後、店主の中貝稔さん(61)がそばを切る音が響いてきた。

 メニューは十割盛りそばと、妻の照代さん(61)が作る栗入りぜんざいのほか旬の素材を使った料理もある。そば粉は地元の但東町や久美浜町産などが中心。水は約160万年前の火山活動でできた市内の名勝、玄武洞の湧き水を使う。

 閉店時間の午後2時過ぎ、若い男女4人が店に入ってきた。用意したそばは終わっている。「30分待てるかな」と声を掛けた中貝さんは、再びそばを打ち始めた。「1時間に1本足らずの列車に乗ってきてくれると思うと、うれしくて」

 1930(昭和5)年築の駅舎が4年前に改修され、瓦屋根や板張りの壁など昔の姿が再現された。それを機に、中貝さん夫婦ら地元の5人が応援団を結成。1日に平均3人しか利用しない駅を活性化しようと、駅事務室で素人料理の店を開いた。営業日には応援団のほかのメンバーが、店の前で地元の野菜や果物などを販売する。「アイガモ農法で使ったカモを、冬になると汁そばの具にすることもあります」と池上敏紀さん(60)。

 ごちそうさまと4人が列車へ急ぐ。中貝さんは「うみゃあ松葉ガニ、食べて帰んにゃあな」と見送った。

文 石井広子撮影 渡辺瑞男 

沿線ぶらり

 北近畿タンゴ鉄道宮津線は丹後半島を横断し、西舞鶴駅(京都府舞鶴市)と豊岡駅(兵庫県豊岡市)を結ぶ83.6キロ。

 隣の豊岡駅からバスで30分の出石城跡の周辺には江戸時代後期の上級武士の居宅や明治時代中期から後期の豪商の旧邸などが並ぶ。永楽館(TEL0796・52・5300)は1901(明治34)年開館、近畿地方最古の芝居小屋で県の重要有形文化財。歌舞伎や狂言、落語などを見物できる。

 木津温泉駅から車で約5分の夕日ケ浦は、日本夕陽百選にも選定。問い合わせは夕日ケ浦・木津観光協会(0772・74・9350)。

 

 興味津々
県立コウノトリの郷公園
 

 駅の愛称は「コウノトリの郷駅」。県立コウノトリの郷公園へは駅から車で10分(TEL0796・23・5666)。国の特別天然記念物コウノトリの繁殖や放鳥に取り組む施設で、コウノトリを間近で観察できる=写真。午前9時~午後5時。(祝)を除く(月)休み。

(2014年11月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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