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ひとえきがたり

八代駅
(熊本県、肥薩おれんじ鉄道)

女性の視点で町おこしの拠点に

「駅は接客の場、常に笑顔で」と、職場体験の中学生と列車を見送る岡田駅長
「駅は接客の場、常に笑顔で」と、職場体験の中学生と列車を見送る岡田駅長
「駅は接客の場、常に笑顔で」と、職場体験の中学生と列車を見送る岡田駅長

 特急列車のヘッドマーク、黒煙を上げる蒸気機関車の写真パネル――。駅から歩いて5分、廃業した映画館で鉄道展が開かれていた。数十点の出展資料は八代市の小中学校で教諭を務めていた小沢年満さん(故人)のコレクション。映画館での展示をとりもったのは、駅だった。

 今年3月に亡くなった年満さんが残した資料数千点を生かせないかと、息子の光二さん(50)が駅に相談を持ちかけたのがきっかけだった。駅長の岡田敏代さん(65)が市民活動を支援する市の事業への応募を勧め、助成金を獲得した。

 駅は、地域活性化に取り組むNPO法人「ネット八代」が運営・管理している。岡田さんは、その中心メンバーだ。

 50歳で会社勤めを辞めた岡田さんは駅前で自然食品の店を始めた。だが、日中の駅前は閑散として店を訪れる客もまばら。九州新幹線が開業すれば駅に特急も止まらなくなり、町はもっとすたれるのではないか。危機感を抱いて仲間と町おこしの活動を始めた。2004年、新幹線の一部開業に伴って在来線が第三セクターに転換され、出資する市の推薦で駅の運営を委ねられる。迷いはなかった。「駅を町おこしの拠点にしたいんです」

 駅舎内の空き店舗で月に数回、市民活動の相談会を開き、光二さんのような市民の企画を吸い上げている。そのほかにも駅に看護師を招いて子育ての相談会を開いたり、地元の特産品を販売する朝市を開催したり。駅の業務に当たるネット八代のメンバーは主婦が中心。女性ならではの視点で工夫を重ねてきた。

 鉄道展は今年2回開かれ、700人を超える人が訪れた。「交通博物館をつくるのが父の夢でした。たくさんの人が見てくれてうれしい」と光二さん。来年1月、第3回が開催される。

文 山田絵理佳撮影 上田頴人 

沿線ぶらり

 肥薩おれんじ鉄道は、八代駅(熊本県八代市)と川内駅(鹿児島県薩摩川内市)を結ぶ116.9キロ。JR鹿児島線の一部を引き継いだ。

 洋画家・境野一之(1900~89)ら熊本にゆかりの芸術家の作品を中心に収蔵するつなぎ美術館(TEL0966・61・2222)へは津奈木駅から徒歩10分。館の周辺をはじめ津奈木町内には16体の彫刻が置かれ、彫刻を楽しむ散策用コースも整備している。

 八竜山の山頂にあるさかもと八竜天文台(TEL0965・45・3453)は肥後高田駅から車で約40分。12月14日(日)にふたご座流星群の観望会を予定。入館料300円、小中高生150円。

 

 興味津々
鮎屋三代弁当
 

 駅前の「より藤」(TEL0965・33・1145)は100年以上続くアユ料理店。アユの甘露煮が丸ごと1匹のった鮎屋三代弁当(1150円)は九州新幹線と肥薩おれんじ鉄道の開業を記念して作られ、JR九州主催の九州駅弁ランキングで2005年の第1回から3年連続1位になった。

(2014年11月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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