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ひとえきがたり

東舞鶴駅(京都府、JR舞鶴線)

抑留、帰国、今も忘れぬ味

近代的な高架駅に当時の面影はない。ヨットをモチーフにしたデザインが旅人を迎える
近代的な高架駅に当時の面影はない。ヨットをモチーフにしたデザインが旅人を迎える
近代的な高架駅に当時の面影はない。ヨットをモチーフにしたデザインが旅人を迎える 地図

 駅から北にまっすぐ延びる三条通。1キロ足らずの大通りの先に、入り組んだ湾が広がる。終戦の年、1945年から58年にかけて、大陸から舞鶴港に引き揚げてきた人たちは総計66万人。大半がシベリア抑留からの帰還者だ。故郷をめざして人々は三条通を駅に急いだ。

 「夏の日差しを反射する緑が印象的でした」。松本茂雄さん(89)は48年7月末に帰還。駅に向かうトラックの荷台から見た光景は、冬は零下50度にもなる極寒の地で住宅建設などに従事させられた目にまぶしかった。駅は帰還者であふれ、松本さんは父の待つ福島県に帰った。

 駅では、地元の女性たちが食糧難の中で調達したサツマイモを大鍋でふかしてふるまった。「今でもおいしかったと言われることがあるんですよ」と、舞鶴引揚記念館で語り部をしている吉田かず子さん(73)。引き揚げが本格化したころ小学生だった吉田さんは、帰還者たちに踊りを披露した。「ご苦労さまでした」と花束を渡すと、地鳴りのようなどよめきがわき上がったことを覚えている。

 ねぎらいに包まれて帰還者が舞鶴を後にする一方、港には夫や息子の帰りを待ちわびる「岸壁の母」や妻の姿が目立った。桟橋近くの小学校で用務員として働きながら夫を待つ妻もいたという。

 帰還者を迎えた駅舎は96年、高架化に伴って建て替えられた。支援団体によると、抑留を経験した存命の人たちの平均年齢は91歳だそうだ。

文 土田ゆかり撮影 渡辺瑞男 

沿線ぶらり

 JR舞鶴線は、綾部駅(京都府綾部市)と東舞鶴駅(舞鶴市)を結ぶ26.4キロ。東舞鶴駅は小浜線の終点でもある。

 東舞鶴駅から徒歩約15分の赤れんがパーク3号棟では休館中の舞鶴引揚記念館(TEL0773・68・0836)が特別展示をしている。シベリア抑留者が実際に使ったコートや水筒のほか、強制労働など抑留中の様子を描いた絵を含む約400点。300円。

 リアス式の舞鶴湾と市内を一望できる五老スカイタワー(TEL0773・66・2582)は五老ケ岳公園の中にあり、隣の西舞鶴駅から車で18分。200円。

 

 興味津々
引揚桟橋 width=
 

 駅からバスで20分の引揚記念公園には舞鶴引揚記念館(改装のため来年10月まで休館中)のほか、記念碑や「岸壁の母」の歌碑が立つ。展望台からは1994年に復元された平引揚桟橋=写真=を見ることができる。

 

(2014年12月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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