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ひとえきがたり

黄福柵原(こうふくやなはら)駅
(岡山県、旧片上鉄道)

廃線に「新駅」 線路も延びた

「黄福」は卵かけご飯で町おこしを進める美咲町のキャッチコピー。真新しい駅に戦前生まれのキハ702が到着した
「黄福」は卵かけご飯で町おこしを進める美咲町のキャッチコピー。真新しい駅に戦前生まれのキハ702が到着した
「黄福」は卵かけご飯で町おこしを進める美咲町のキャッチコピー。真新しい駅に戦前生まれのキハ702が到着した 地図

 「当列車は黄福柵原行きの展示運転車両です」。車掌役の男性がアナウンスすると、1936年製のキハ702が400メートル先の「新駅」に向けて動き出した。

 鉱山鉄道として23年に開業した片上鉄道は91年に廃止された。旧国鉄から譲り受けた車両が走る姿を惜しんだファンは翌年、保存会を設立。線路の一部とともに鉱山公園内に保存された吉ケ原(きちがはら)駅を起点に、98年から動態保存してきた。

 会員は主に西日本在住の会社員ら約20人。週末に集まっては月1回の展示運転から設備の保守までこなす。必要な技術は片鉄OBに学んだほか、国認定の運転講習も受けている。会員の森岡誠治さん(44)は高校生の頃、片鉄に乗りに来て駅で寝ていたら地元の人が家に泊めてくれた。「働いている人も沿線の人も、片鉄は人のよさが魅力でした」

 吉ケ原駅から300メートル進み、線路の端で折り返していた保存鉄道に昨年11月、新しく黄福柵原駅ができた。地元の美咲町が公園内に新築するトイレを「駅」としても使えるよう設計してくれたのだ。保存会は中古レールを調達し、1年がかりで線路を160メートル延ばした。懐かしい車両が再び駅と駅を結んで走り出した。

 「新駅開業」を知って隣の津山市から家族でやって来た平井孝尚さん(63)は「これだけ古い鉄道を動かす努力がすごい。いいものを見せてもらったよ」。真新しい駅に降りると、うれしそうに携帯電話のカメラに収めた。

文 伊東絵美撮影 浅川周三 

沿線ぶらり

 片上鉄道(廃線)は片上駅(岡山県備前市)から柵原駅(旧柵原町)までの33.8キロを結び、旅客も運んでいた。

 保存鉄道がある柵原ふれあい鉱山公園へは岡山駅からバスで約2時間。展示運転は毎月第1(日)。片上鉄道保存会の1日会員になって乗車する。高校生以上300円(中学生以下は保護者同伴)。1日9便のうち当面は2便が黄福柵原駅に入線する。硫化鉄鉱を掘っていた柵原鉱山は1991年に閉山。公園内の柵原鉱山資料館(TEL0868・62・7155)では採掘の様子を再現。500円。坑道見学会も(第1(日)、300円)。

 

 興味津々
たまごかけごはん
 

 駅から徒歩5分、たまごかけごはんの店 らん(TEL0868・62・0416)では産みたて卵をご飯にかけて5種類のたれで味わえる。一番人気は町特産の黄ニラのたれ。定食は黄ニラの水ギョーザなどがついて600円。(土)(日)(祝)のみ営業。午前11時~午後5時。

(2015年1月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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