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ひとえきがたり

浜名湖佐久米(さくめ)駅
(静岡県、天竜浜名湖鉄道)

800羽の白い群れは冬限定

笹田さんが手にする餌をめがけ一斉に飛んでくるユリカモメ。ホームの前には浜名湖が広がる
笹田さんが手にする餌をめがけ一斉に飛んでくるユリカモメ。ホームの前には浜名湖が広がる
笹田さんが手にする餌をめがけ一斉に飛んでくるユリカモメ。ホームの前には浜名湖が広がる 地図

 浜名湖畔の小さな無人駅に、冬になると白い大群が舞い降りる。その正体はユリカモメ。4千キロ離れたシベリアから渡ってくる。多いと800羽にもなり「ギィーギィー」という鳴き声が響き渡る。

 17年前、近くですし店を営む笹田順嗣さん(65)が餌付けを始めた。今ではすっかり冬の風物詩。笹田さんは「カモメ駅長」として親しまれている。

 鳥たちがシベリアに帰る3月末まで、休日ともなればホームは見学者であふれる。浜松市の主婦、渡辺みどりさん(46)は週1回は足を運び、ユリカモメの写真をブログで紹介している。「寒くなるとユリカモメ日和。ソワソワするの」

 よく晴れた週末。笹田さんが大袋を抱えて駅にやってきた。中にはパンの耳が40斤分。1日2回の餌やりで週に8、9袋を使い切る。「今日はあったかいで、少ないなあ」。ユリカモメは気温が低く風の強い日を好むという。餌やりに来た子どもたちが残念そうな顔をした。それでも笹田さんがパンを高く掲げると、鳥たちは器用にくわえて飛び去っていく。「脚が黄色いのはまだ若い鳥だで、優しくしてやらにゃ」。笹田さんの注意を聞いて、子どもたちも後に続く。

 4年前、1週間ほど入院した笹田さんに代わって知人が餌やりをしようとしたが、ユリカモメは姿を見せなかったそうだ。「賢いから、人の顔をよく覚えとるんだわ」。これからも体が動く限り続けていくつもりだ。

文 永井美帆撮影 浅川周三 

沿線ぶらり

 天竜浜名湖鉄道は掛川駅(静岡県掛川市)と新所原駅(湖西市)を結ぶ67.7キロ。

 38駅中10駅に飲食店を併設。新所原駅には駅のうなぎや やまよし(TEL053・577・4181)がある。うな丼(1300~2100円)は弁当にもできる。(火)休み。

 気賀駅から徒歩3分に気賀関所(TEL523・2855)が復元されている。東海道のわき街道で、「入り鉄砲に出女」を調べる厳しい関門だった。身分の高い女性も多く通行したことから「姫街道」と呼ばれ、4月にはその行列を再現した祭り「姫様道中」も行われる。

 

 興味津々
ユリカモメのオリジナル商品
 

駅務室を改装した喫茶店かとれあ(TEL053・526・1557)では餌(100円)や記念入場券(160円)を販売。ユリカモメを間近で眺められ、オリジナル商品=写真=も。午前8時半~午後7時。

(2015年2月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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