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建モノがたり

阿倍野歩道橋(大阪市阿倍野区)

ここから始まる 自由空間

夜の上空から見た「a」のかたち。屋根のテント膜がライトを透過し、三角形の複雑な模様を浮かび上がらせる
夜の上空から見た「a」のかたち。屋根のテント膜がライトを透過し、三角形の複雑な模様を浮かび上がらせる
夜の上空から見た「a」のかたち。屋根のテント膜がライトを透過し、三角形の複雑な模様を浮かび上がらせる 上下する屋根を、鋼材を三角形に組んだトラス構造で支えている

上空から見下ろすと現れるアルファベットの文字。繁華街の真ん中に仕組まれた、何かの暗号?

 「aからまちがはじまる」がデザインテーマだ。「はじまりの文字で、阿倍野の頭文字でもある『a』。この場所が人々の活動の起点となるよう、デザインに願いを込めました」。設計を担当した昭和設計の久保岳さん(46)は話す。

 大阪の「南の玄関口」。交通量の多い駅前交差点の頭上で、真っ白な歩道橋がJR天王寺駅ビルや高さ300メートルのあべのハルカスを結んでいる。2009年に動き出した大規模な再開発事業の一環で、老朽化していた旧歩道橋が架け替えられたものだ。

 近くのビルの上階から見下ろしてみてほしい。歩道橋は確かに「a」の字を描いている。

 デザインだけを優先した形ではない。交差点を囲む四つの建物を効率的につなぐ利便性も備える。歩くこと自体を楽しめるよう、変化に富ませた歩行空間も特徴だ。リズミカルに上下する屋根に、場所によって幅が異なる通路。三角形の構造で屋根を支える鋼材の太さもランダムに異なり、見る場所や方向で印象の異なる景色が目に入る。

 「『通る』という基本機能を尊重した上での話ですが、歩道橋で緑を育てたり将棋を指したりする人が現れてもいいと思うんです。自由な公共空間であってほしい」と久保さん。

 ビルの谷間で街をつなぐ「はじまり」の場所。人々はそれぞれのペースで次の場所へと向かうだろう。

(安達麻里子、写真も)

 DATA

  設計:中央復建コンサルタンツ・昭和設計
  用途:歩道橋
  完成:2013年7月

 《最寄り駅》 天王寺、大阪阿部野橋


建モノがたり

 天王寺駅の北側には、戦後の闇市に起源を持つ天王寺駅前阪和商店街がある。昭和期の雰囲気が残る空間に、菓子問屋のワタナベ商店(問い合わせは06・6771・5861)をはじめ新旧の店が混在し、近年は「裏天王寺」と親しまれるエリアだ。

(2020年6月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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