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建モノがたり

堀ビル(東京都港区)

築90年の文化財 第二の〝人生〟

右側の塔屋は木造時代にもあり、大切なデザインとして引き継がれた。完成時は周囲に高い建物がなく、ひときわ目を引いた
右側の塔屋は木造時代にもあり、大切なデザインとして引き継がれた。完成時は周囲に高い建物がなく、ひときわ目を引いた
右側の塔屋は木造時代にもあり、大切なデザインとして引き継がれた。完成時は周囲に高い建物がなく、ひときわ目を引いた 1階の共用ラウンジスペース。建築やデザイン関係のイベントなどにも利用される。左奥の壁は、チョウチョ形のブロックを積み上げた耐震壁

ビジネスマンの町・新橋の一角に、タイムスリップしたような建物。これは何? なぜここに?

 「4階のお勝手から、道行く人の服装を見て四季を感じていました」。築約90年の堀ビルオーナーで、最近まで約70年間このビルに暮らした堀信子さん(87)は振り返る。

 ビルは1890年に創業し、建築金物の製造販売を手がける堀商店の店舗・事務所兼住居だった。初代が建てた木造洋館が関東大震災で焼失後、2代目の義父が鉄筋コンクリート造りで再建。「義父は美的かどうかに厳しい人で、相当苦心して建てたと思います」。第2次大戦時も辛くも被災を免れた。

 きれいなカーブを描くファサード(正面)、規則的に並ぶ窓。外壁はスクラッチタイル張りで、鍵と錠をモチーフにしたレリーフなどで装飾されている。一時は都の歴史的建造物に選定され、1998年に国の登録有形文化財となった。

 義父や3代目の夫亡き後ビルを守ってきた信子さんだが、維持費や将来の相続が課題になってきた。建物を残しながら活用できないか。この思いに応えたのが、建物全体を改修し、シェアオフィスに転換する竹中工務店の提案だった。同社の鍵野壮宏さん(39)は「こういう建物は人を引きつける力があって、コミュニティーやアイデアが生まれてきた。場所として力を持っています」と話す。

 外壁タイルはドローンで調査後に落下防止策を講じた。床のモザイクタイルや階段、木製扉や照明などは極力オリジナルの意匠を保全、一方で耐震補強や内装更新を行った。

 今年4月に「GOOD OFFICE新橋」として開業。運営するグッドルームの小倉弘之さん(41)は「大事に受け継ぎつつ新しいことに挑戦していきたい」と語る。入居した会社の小八木克彦さん(76)は「味のあるビルです。便利な立地なのに静かでホッとする」と顔をほころばせた。


(小松麻美、写真も)

 DATA

  設計:小林正紹、公保敏雄(竹中工務店改修)
  階数:地上5階、地下1階
  用途:シェアオフィス
  完成:1932年(2021年改修)

 《最寄り駅》 新橋


建モノがたり

 旧新橋停車場 鉄道歴史展示室(問い合わせは03・3572・1872)では、日本の鉄道発祥の地である汐留の歴史を展示や映像などで紹介。史跡指定を受けた開業当時の駅舎やプラットホームの一部の遺構が見学できる。午前10時~午後5時(入館は15分前まで)。原則(月)((祝)の場合は翌日)休み。開館日時はホームページで確認を。

(2021年7月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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