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建モノがたり

宮脇町ぐりんど(高松市)

森と一体 半地中の豊かな暮らし

「植物の成長がここまで速いと思っていなかった」と長田さん。設計事務所の3人で剪定(せんてい)している

 高松市の住宅街の一角。宮崎駿監督のジブリ映画にでも登場しそうな生命力のある建物は何?

 

▼建モノがたり 宮脇町ぐりんど

 

 

 グーグルマップを見ながら歩いていたのに通り過ぎてしまった。生い茂る樹木に覆われた斜面の片隅を振り返ると、ゆるやかに波打つ形の白壁と、茶色の扉に気がついた。

 「宮脇町ぐりんど」は、約40メートルに及ぶ30度ほどの傾斜地に建てられた5棟7戸の「集合住宅」だ。各棟は約1.5メートルずつ離れて独立し、段々状に並んで地中に埋まるように造られている。

 「雑木林の連層長屋」。設計を手掛けた長田慶太さん(48)はこう呼んでいる。この傾斜地は、警察宿舎が解体された後、10年ほど放置されていた。周囲に空き家も目立つ。「人を呼び戻す。森が下りてくる。両方が幇助しあえる住宅になれば」

 費用をかけて土地を造成するのではなく、斜面の一部を掘って居住空間を造った後に屋上を緑化する手法で、2年半かけて完成させた。「green-do(緑化)」「ground(地面)」などの意味を込めて「ぐりんど」と名付けた。

 いま、長田さん自ら、ぐりんどの1戸に入居している。部屋を訪れると、屋外で鳴り響くセミの声は遠ざかり、静けさに包まれた。猛暑の日でも、空気はひんやりとして洞窟にでもいるような感じがした。

 「半地中の生活は、やや高めの湿度とのつき合い方が難しいが、室温は外気と比べると夏は涼しく冬は暖かい」と長田さん。夕日が差し込むベランダと部屋の間はガラス張りで、豊かな緑がみえる。「植物の変化を身体で感じる。自然の循環のなかにいるようだ」

 ぐりんどに昨年入居し、香川と東京の2拠点生活を送るスタイリストの細沼ちえさんは「植物の色、虫の音が行くたびに変わる。生態系を断ち切らないつくりにひかれる」と話す。

 自然と人間がイーブンな関係でありたいというコンセプトが詰まっているぐりんど。完成から9年、豊かに育った木々が居住者をやさしく包み込み、建物と森が一体化しているように見えた。

(島貫柚子、写真も)

 DATA

  設計:長田慶太建築要素
  階数:地上1階
  用途:集合住宅
  完成:2015年

 《最寄り》栗林公園北口

 


建モノがたり

 徒歩13分の松下製麺所(☎087・831・6279)は住宅街にある小さなうどん店。昔ながらの手打ちうどんを完全セルフで提供している。創業時から60年弱働く店主の松下守さんは「シンプルさが売り」と話す。1玉250円。午前7時~午後3時。(日)休み。

(2024年9月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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