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建モノがたり

予科練平和記念館(茨城県阿見町)

特攻の記憶 内外からつながる空

黄緑色の芝生とくすんだ銀色の建物が鮮やかなコントラストを描く

戦争の歴史を伝える平和記念館は、市松模様の外観が目をひきつける。アートのようなデザインはなぜ?

 

 

 茨城県阿見町は、かつて「海軍の町」と言われていた。1940年に土浦海軍航空隊が設置され、少年航空兵を養成する予科練教育の中心地となった。

 特攻隊として命を落とした少年兵は少なくない。戦後、戦争経験者が所有していた制服や手紙、日記、写真、教科書などの保存管理を町に求めたことをきっかけに、町が15年前に建てたのが「予科練平和記念館」だ。

 霞ケ浦のほとりに立つ記念館は、広大な芝生に銀色の箱がいくつも積み上がっているようにみえる。亜鉛メッキの鉄板が覆う壁面と、いくつもの大きなガラス窓を組み合わせた建物は、斬新なデザインだ。

 「館内の展示空間を最大限にいかし、展示と建築の融合をめざしました」。展示のコンセプトや設計を担った乃村工芸社の大西亮さん(51)は振り返る。

 館内は、海軍の制服の特徴「七つボタン」にちなみ、七つの展示空間を配置した。手紙や手記を並べる部屋や、特攻の様子を伝える映像を流す部屋などで、予科練の実像を紹介する。

 一転して、部屋をつなぐロビーやホール、ラウンジは吹き抜けで開放的なスペースを設けた。来館者は、壁面に並ぶガラス窓から、いくつかの切り取られた空をのぞむことができる。

 「予科練の再現をめざした展示空間で当時の様子を感じ取り、それぞれの展示室から一歩出たら空を眺めてみてほしい。少年たちの気持ちや今の世界を考えてみていただければ」

 大西さんの考えに共感した建築家の吉村靖孝さん(52)は、建物の内外で「空を見せる」をキーワードとして実施設計にあたった。

 平和記念館としては類を見ない形に議論も起きた。だが、館学芸員の山下裕美子さん(49)は「若い世代に戦争、そして予科練について知ってもらうためには、まず入ってもらうことが大事」と語る。学校行事に加え、映画のロケ地となった影響で若い世代の来訪が増える傾向にあるという。

 取材で訪れたときの空は、雨上がりの曇り空だった。彼らが見たかもしれない空を見上げて、そっと平和を祈った。

(中山幸穂、写真も)

 DATA

  設計:乃村工芸社、吉村靖孝建築設計事務所
  階数:地上1階
  用途:歴史博物館
  完成:2010年

 《最寄り駅》:土浦駅からバス


建モノがたり

 歩いて約3分、陸上自衛隊土浦駐屯地内にある雄翔館(☎029・886・5400)は、予科練出身者や遺族らがつくる公益財団法人海原会が管理する記念館。予科練戦没者の遺書や遺影、遺品など歴史的資料を展示している。無料。午前9時半~午後4時半。(月)休み。

予科練平和記念館
https://www.yokaren-heiwa.jp/

(2025年8月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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