読んでたのしい、当たってうれしい。

美博ノート

大運河にて

色彩画家のヨーロッパ紀行(一宮市三岸節子記念美術館)

大運河にて

 土や砂を混ぜたざらっとした質感の赤。なめらかな運河の水面の白との対比が印象的な、ベネチアのれんがの色だ。三岸節子(1905~99)は、人けのない冬のベネチアを好み、ゴンドラに乗ってはデッサンを重ねた。

 パリでの個展「花とヴェネチア」は、この赤色「ベネチアンレッド」のためにテーマを決めた。花の絵にも赤を多用した節子。学芸員の大村菜生さんは、「燃えるような赤が好きだったのでは」と話す。

 館の展示室の一部として残る土蔵の中で、洋画の画集を眺めて育った節子。ピカソやマティス、ボナールらに影響を受けた。同じ画家の夫・好太郎が31歳で急逝した後は、欧州への憧れを胸に秘めながら、静物画を描き義母や3人の子どもを養った。

 子が独立後の49歳で初渡欧、1年半念願の地を満喫した。63歳での再渡欧は20年の滞在となった。本展では2度の欧州滞在から描かれた風景画を中心に29点を紹介する。

(2021年9月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

美博ノートの新着記事

  • 五十三次 京三條橋 江戸・日本橋から約500キロ、東海道五十三次の終着点は京の玄関口・三条大橋。東山や八坂の塔を背景に、頭に薪をのせて売り歩く大原女、茶筅をさした竹棒をかつぐ茶筅売り、衣を頭にかぶった被衣姿の高貴な女性が行き交う。

  • 五十三次 府中 日暮れて間もない時分、遊郭の入り口で、ちょうちんを持った女性と馬上の遊客が言葉をかわす。馬の尻にはひもでつるされた馬鈴。「りんりん」とリズム良く響かせながらやってきたのだろうか

  • 五十三次 大磯 女性を乗せ、海沿いの道を進む駕籠(かご)。担ぎ手たちが「ほい、ほい」と掛け声を出して進んだことから「ほい駕籠」とも呼ばれた。

  • 三菱十字号 トヨタ博物館「お蔵出し展」

新着コラム