カバの像
豊穣と再生を象徴する青いカバ。脚が折られた訳は。
渦巻く水と炎、その間の一本道を女性や子どもたちが進む。モチーフは、中国の僧が説いた「二河白道」。貪欲(どんよく)を表す「水の河」と怒りを表す「火の河」に挟まれた道が、極楽浄土に通じるというたとえ話だ。岐阜県大垣市出身の日本画家、守屋多々志(1912~2003)が、戦争で逃げまどう民衆の姿を重ねて描いた。
守屋は東京美術学校を1936年に卒業後、中国大陸に2度出兵。その間にも、小説家の吉川英治らと海軍の戦史編纂(へんさん)に携わり、中国各地を取材して穏やかな街の風景や人々の暮らしをスケッチに残している。
こうした戦時下の経験を元に後年、本作を描いた。「戦禍に苦しみ、陰で泣いているのは弱い者たち。現代にも通じる画題になっている」と学芸員の上田朋子さん。白い道をひたすら歩む人々。その中でただ一人振り返る女性の姿は、「見る人に何かを語りかけているようです」。