あやめの衣
洋画のなかに日本の美。シンプルな構図で映える女性と江戸の小袖
民藝運動を主導した柳宗悦は、生涯で一人だけ内弟子を取った。金蒔絵師(きんまきえし)の家に生まれ、漆芸の技術を身に付けた鈴木繁男(1914~2003)だ。
鈴木は、21歳で目にしたバーナード・リーチや芹沢銈介らの民藝作品に魅了され、感動を和紙に漆で表現した。これが柳の目に留まり、柳邸に住み込むことに。急に収集品を見せられ答えに窮すると「反応が遅い」と一喝されるなど、厳しい指導を受けた。
知識に頼らず美を見いだす「直観力」を磨いた鈴木は、柳が創刊した雑誌「工藝」の装丁を一任された。本作は記念すべき100号の表紙。千部超全てを鈴木が和紙に漆で手描きした。タイトルや文様に、漆独特の重厚なツヤが見てとれる。学芸員の北谷正雄さんは、「文様や線を生み出す鈴木の力量が伝わる」と話す。柳は鈴木の装丁をとても気に入り、それまでに手がけた36号分の表紙全てを屛風に仕立てるよう指示。本作は右隻に収められている。