国の重要文化財に指定されている北海道函館市の遺愛学院本館は、築118年となる現在も授業が行われ、自習室を備えるなど、遺愛女子中学・高校の校舎の一部として生徒が大切に使用している。大規模改修完了前の2023年秋ごろ、同校に通う生徒たちが市民らに本館の歴史や建築的な特徴を説明する「文化財コンシェルジュ」が発足した。生徒は「参加者が喜んでくれる表情を見て、心から楽しいと思える」と、母校への愛を深めながら魅力の発信に努めている。(大石裕美)
「こちらに見える階段は、お菓子のポッキーのCM撮影に使用されたことからポッキー階段の愛称で親しまれています」。11月中旬、高校2年の柳川桜子さん(17)と下町李(もも)さん(17)が校舎を記者に案内してくれた。タブレットを見ながら説明し、時には「3・6メートルもの廊下の広さはなかなか珍しいと思います」などと自身の感情も織り交ぜる。

コンシェルジュは、明治後期に建てられた木造建築として貴重な価値を持つ同館をより地域の人に知ってもらい、生徒自身にも学校への理解を深めてもらう機会として校内で募集がかかった。11月時点で高校1年から3年の約50名。年3回行われる一般公開や受験生向けの入学説明会などで、5つのルートに分かれ、グループごとに説明する。案内は1時間前後で、台本は決まっていない。現在、改修を行っている別棟の講堂も2002年に国の登録有形文化財に指定されており、工事が完了次第、案内先に加える予定だ。
2024年度は1回だけだった一般公開は、本年度には3回に増やし実施した。同校によると、昨年11月の公開では地元住民が9割で、卒業生が大半を占めたが、今年公開された4月、7月、11月には徐々に参加者が増え、東京や兵庫など道外から訪れる人も目立つようになった。11月の参加者は225人と、昨年の3倍となった。

1907年12月、米国の建築家ジェームズ・ガーディナーの設計によって建てられた遺愛本館は、至るところに当時画期的だったと考えられる米国の設備が取り入れられている。暖房器具には輸入したセントラルヒーティング設備が用いられ、オイルランプ式のシャンデリアがつり下げられている部屋もある。また、廊下には戦争中に学校が接収された際についたとみられる軍人の靴のスパイク跡がついており、時代背景が分かるものも残されている。建築の歴史や設備、構造など、コンシェルジュの生徒たちは日々時間を見つけて学習する。
コンシェルジュが覚える情報量は多い一方で、案内の流れは全て生徒が考える。柳川さんと下町さんも生物部や化学部など複数の部活動を掛け持ちしながら、空いた時間に校舎について勉強する。柳川さんは「どこから説明しようと迷う時くらい案内することはたくさんありますが、普段の学校生活で気になった場所を調べて知識が増えていくことが楽しいです」とやりがいを語る。柳川さんと下町さんがコンシェルジュとして活動できるのは受験シーズン前までで、残り1年ほど。下町さんは「重要文化財の校舎というめったに見られないものが函館に残されていることを伝えたい」と意欲を見せた。
