朝日
庭の植物や昆虫、カエルやネコなどを、鮮やかな色彩と輪郭線で描いた熊谷守一(1880~1977)。
白んだ空を明るい水色で、朝日を受けて輝く富士の頂の冠雪を黄色で、光に照らされた山体を黄土色で表現している。手前のまだ光が当たらない森か木立の暗さとは対照的だ。
「どだい油絵具の色なんて、自然の実際の光でみる色に比べたら、どの色も一つことにしか見えないくらいのものだ」「そんなにいろんな色を使ってもしようがない」。熊谷守一の娘、榧(かや)さんが「婦人之友」への寄稿で回顧した彼の言葉だ。
本作は77歳の時に描いた。「朝日が昇るにつれ、刻一刻と富士山の色が変化する様子を、見事に捉えています」と話すのは、学芸員の小南桃生さん。「朝日に浮かび上がる富士山に、壮大な光のエネルギーを感じたのだと思います」
熊谷は脳卒中を患い自宅にこもるようになるが、その前年に写生旅行をしている。本作は倒れた翌年のものだ。「外出できなくなってからも、過去のスケッチをもとに多くの風景画を描いています。記憶の中の景色を見ていたのでしょう」