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私の描くグッとムービー

福本ヒデさん(芸人)
「リアリズムの宿」(2003年)

若い頃の不安や気まずさ、懐かしく

福本ヒデさん(芸人)<br>「リアリズムの宿」(2003年)

 つげ義春さんの原作漫画が好きです。不安や嫉妬、欲望など、人には内緒にしたくなるような心情の描写に衝撃を受けました。映画版はオリジナルの場面も加わり、男2人が海辺の田舎町であてもなく過ごすロードムービーになっています。

 駅に降り立った若い映画監督と脚本家は、直接話したこともない微妙な顔見知り。両者を旅に誘った共通の友人は現れず、冒頭から気まずい雰囲気に。ぎこちない関係のまま不毛な時間を過ごす様子がとてもリアルです。

 地元のヤンキーの自宅に招かれるとその家族が帰ってきて居づらくなったり、宿の夕食も風呂もひどくて笑えてきたり。めちゃくちゃな出来事ですが、学生時代や20代の頃の自分にも身に覚えがあって、人に話すほどでもないような記憶の扉を開いてくれます。

 中でも、海辺にいる2人に、服を流されたという半裸の女性が駆け寄ってくる場面が印象的。衝動的な行動のようですが、初対面の人にこそ大胆に飛び込めることもあると、妙に共感しました。

 この絵は、ムンクの絵画「メランコリー」のオマージュ。一昨年、美術館のムンク展で作品を見た時、この映画を思い出しました。遠景の桟橋にいる3人は映画に出てくる男女で、右下の人物は今の自分。「アベ首相」のステージメイクをしています。映画を見たのは、この役に巡り合う前。劇団内での立ち位置に悩み、暗い思いを抱えていました。でもこの映画は「そのままでいいんだ」と寄り添ってくれた。自画像はそんな当時を思い出し、ほほ笑んでいます。

(聞き手・木谷恵吏)

 

 監督・共同脚本=山下敦弘
  原作=つげ義春
  出演=長塚圭史、山本浩司、尾野真千子ほか
ふくもと・ひで
 1971年生まれ。社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」所属。近著に画集「永田町絵画館」。昨年のライブを収録したDVDを発売中。
(2020年6月12日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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