この映画の魅力は子ブタのベイブのかわいさ。脚に泥をつけてモタモタしている様子、細かいおしりの動きなどは特に見どころです。
ベイブのかわいさは、素直で謙虚な性格にも表れていて、とにかく礼儀正しくてお願い上手。つい応援したくなってしまうのは、動物の世界でも人間の世界でも同じだと思いました。
こんなにかわいいベイブですが、厳しい現実も描かれているのがこの作品の良さ。実はベイブは食用のブタで、物語の中盤までベイブが食べられてしまうかもという空気がずっと漂っている。背景の空もぼやーっとした水色で描かれ、建物もおとぎ話のような造りなのにどこか影があって暗いんです。何となく不穏な印象なのはベイブの世界観そのままですよね。
たくさんの動物が出てきて一見にぎやかに見えるんですが、その中にもルールはあるし序列もある。動物によって羊を追ったり、ペットであることが仕事だったり、役割や立場も違っていて、そのことに彼らはどこか誇りを持っています。
ベイブの本来の運命に、周りの動物たちから哀れみの目を向けられることもある。けれどベイブの人(ブタ)格を否定する動物は一匹もいないんです。ベイブ自身も彼らの当たり前に疑問を持ってはいるけど、牧羊犬ならぬ牧羊ブタを目指して自分らしさを武器に奮闘する。自分は自分、あなたはあなたという距離感が好きです。かわいさと不穏さの繰り返しで、ハラハラドキドキして目が離せませんでした。
(聞き手・佐藤直子)
監 督・脚本=クリス・ヌーナン
制作=ジョージ・ミラーほか 原作=ディック・キング・スミス
出演=ジェームズ・クロムウェルほか
たけだ・のぞむ 兵庫県在住。 代表作『褒めるひと 褒められるひと』(講談社)は単行本全3巻発売中。2023年ドラマ化、現在放送中。
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(2023年6月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)