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私の描くグッとムービー

長井雅子さん(グラフィック・エディトリアルデザイナー)
「こねこ」(1996年)

寄り添い生きる姿 ありのままに

 いい映画って何なんだろう、って考えさせられる作品です。監督の長編初作品で、映画学校の卒業制作。家族が美術や照明を担当し、子役は自分の子どもたちという手作り感のある作品です。でも、お金をかけて、すごい俳優や監督で撮った作品に負けない何かがあると思うんですよね。

 市場で買ってきた子猫が家族の一員になるけど、行方不明に。でも、大みそかに戻って来る、というお話。なんてことないのですが、フィンランドを代表する映画監督アキ・カウリスマキの世界のような、日常の中にペーソスとユーモアにあふれた感じがあるんです。

 普通に人々や猫を映している。特に奇をてらわないでただ撮っている感じにその時代の静かな憤りや喜怒哀楽が入っています。自分でものづくりに迷ったときに見ると勇気づけられますね。

 子猫を助けたおじさんが気になっていた彼女に失恋して、気落ちして家に帰る。すると、いなくなっていた猫たちが一匹一匹戻って来るんです。ここが猫の「人たらし」な感じのするところですね。人間でも、自然に寄り添えることができる人に心つかまれちゃうじゃないですか。ちょっとした時にひと言かけてくれるみたいな。そういう人になりたいですよね。「男はつらいよ」シリーズの映画にはそんな人がいっぱい出てきますね。

 イラストはうちの猫たちが「こねこ」を見ているところ。出演したすべての猫たちが「最優秀演技賞」レベルの名演技でした。小津安二郎のサイレント時代の作品とも共通するところを感じます。人間が社会で生きる姿がちゃんと描かれているからだと思うんです。猫好きだけでなく、小津好きにも見て欲しいです。

(聞き手・清水真穂実)

 

  
   監督・共同脚本=イワン・ポポフ   

 製作国=ロシア

 出演=アンドレイ・クズネツォフ、リュドミーラ・アリニナほか

 

 ながい・まさこ  1971年生まれ。「in C(インシー)」として映画関係のグラフィックを手掛ける。小津安二郎海外向けポスター、シネマ歌舞伎など。
 
(2025年12月12日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)

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