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私の描くグッとムービー

鉛筆彫刻人シロイさん ロングインタビュー

 ある日、SNSをみていた私の目に飛び込んできたのは色鉛筆の上に載ったリコーダーでした。穴や吹き口まで完璧に再現された作品に感動を覚え、すぐフォローして流れてくる新作を楽しみに待つようになりました。
 今回はその「リコーダー」の作者である、鉛筆彫刻人のシロイさんに鉛筆彫刻を知ったきっかけや実際の作り方などを聞きました。 (聞き手・中山幸穂)

 

 シロイ

 1987年生まれ、新潟県出身。もともと美術は苦手だったが、テレビで見た鉛筆彫刻に衝撃を受け制作をスタート。SNSを通じて作品を発表しているほか、各地で個展も開催。3月8日まで、愛媛県の松山城で開催中の 松山城おもしろ芸術祭「城彩」 に出展中。

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※シロイさんは12月5日(金)朝日新聞夕刊「私の描くグッとムービー」に登場しました。

※記事内の写真は全てシロイさん提供

 

――鉛筆彫刻を知ったきっかけを教えてください

 偶然テレビで鉛筆彫刻をやっている人の特集みたいなものを見て知りました。本来書くための鉛筆に彫刻しちゃうというアイデアがすごく面白いと思ったし、何より「なんで折れずにこんな作品が作れるんだろう」と衝撃を受けました。
 美術は苦手でしたが、父親が機械系の職人の仕事をやっている影響で、子供の頃から職人やものづくり自体に憧れがあり、僕自身も工業高校でものづくりに関する勉強をしてきたのですんなりと挑戦することができました。

 

――はじめて作ったもの、覚えていますか?

 覚えています! はじめて作ったのはアルファベットで最も単純な形状の「L」です。それができたので同じく単純な「E」を2つ下に足して「LEE」という作品にしました。ちょうどその時「ジーンズ」と「グリコのレトルトカレー」 が思いついたので(笑)実はその「LEE」は奇跡的に手元に残っていて個展などでも展示したことがあります。

 

はじめて作った作品「LEE」

 

――彫刻方法などは自分でやり方を見つけていったのでしょうか?

 そうですね。独学ではじめたので当初はガタガタになって全然うまくいかなくて、それこそ折れることも頻繁にありました。でもいろんな道具を試して、ちょっとずつ上手くなっていく実感やできあがったときの達成感を感じられるようになってくると、面白いっていう気持ちがどんどん強くなってきて、今も続けられています。

 

――2022年には個展を開催したそうですね

 鉛筆彫刻というものをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いからSNSでの投稿をはじめ、フォロワーが1万人前後になったころくらいに富山市民プラザさんからお誘いを受けました。それまでSNSを通じたネットでのつながりはあれど基本的にはずっとひとりだったので、社長が何十個も彫刻を飾る台を作ってくれたり、スタッフの方々とともにみんなでいろいろ考えたりと、本当にいい経験をさせてもらいました。僕の鉛筆彫刻人としての一つの原点です。

 

~芯から生まれる小さな世界~ 鉛筆彫刻人シロイ展 の様子

 

 この展示会では、はじめて人前での実演も行いました。このときは富山の「T」を30分程度で作り上げるという内容だったのですが、いつも一人静かにやっている作業を、お客様がいっぱいいる中で話しながらやるのは、本当に緊張しましたね。お客様に喜んでもらえて嬉しかったことを覚えています。

 

――アルファベット1文字だと30分程度で作ることができるなんて驚きです。作品ができあがるまでの流れを簡単に教えてください

 鉛筆の木で覆われている部分をカッターで削いで、芯だけを出します。芯は円柱なので、ここから作りたいものにあわせてかたちを整えていきます。この後はイメージしづらいと思うので、今回「グッとムービー」で制作したウルトラマンを例にして説明しましょうか。
 ウルトラマンの場合、人型でそこまで厚みがなくてよいので、芯の正面と後ろを紙やすりを使って真っ平らの板状にします。そうしたらポーズの形に削るために下書きをします。下書きは細い水性のペンでインクをのせていくように書き、その後下書きの線に沿って裁縫用の針を使い輪郭を描いていきます。
 そこからは線以外の不必要な部分をデザインナイフや紙ヤスリ、歯医者さんが虫歯を削る時に使うようなリューターっていう工具などを使って削っていって形にしていきます。その後、作品によってはより本物っぽく見えるよう、絵の具などで色づけを行います。 全体を通してかなり細かい作業になるので、基本的には顕微鏡を使っています。

 

作品はとても小さく、「ウルトラマン」のサイズは約14ミリ

 

――作品ごとに違う鉛筆を使っているように見えますが、作るものによって種類を変えているのでしょうか?

 そうです。鉛筆の芯は濃くなればなるほど芯の直径が大きくなります。作りたいものによって必要な直径幅を考えて、一番適する大きさを選ぶようにしています。
 あとは芯の硬さ。柔らかすぎると強度が落ちるし、硬すぎると今度は力が必要になってくるので、太さと柔らかさのバランスがちょうどよい鉛筆を選んでいます。僕がよく使うのは3B、4B、6Bと、通常より芯が太いデッサンなどで使われている鉛筆の4本です。

 

鉛筆彫刻でよく使用する鉛筆

 

――今までで最も苦労した作品はなんですか?

 一番大変だったのは「鎖」です。芯に穴をあけ鎖のようにつなぎ、本来曲がるはずのない鉛筆を曲げた作品です。完成まで1カ月かかりました。穴を開ける→ヤスリがけで整える→鎖が動けるよう切り離す、を繰り返して長い鎖を作り出します。とにかく同じ作業なので作業自体に「慣れ」が出てくる、かつ鎖の数が増えていくと今まで積みかねてきたものを一瞬で無にしてしまいかねないプレッシャーも重なっていくので、とても神経を使い大変でした。

 

「鎖」

 

――普段作品のアイデアはどういう風に考えているのですか?

 芯で彫刻してしまえば何でも作品になるので、生活している中で、例えば鉛筆の芯でボールペンを表現するにはどうしたらいいのかなみたいなのを常に考えている感じですね。信号機を見たらどうやったら鉛筆の芯に入るかなとか、鉛筆の芯で表現したら面白いものは何かあるかなみたいな。
 作る際の参考としてはガチャガチャとかよく見ます。僕は絵が描けないので、小さいけれどみんながわかるぐらいその特徴を捉えて作られているミニチュアなどを見ながら作るのが一番いいんです。

 

「ネジ」

 

「ペンギン」

 

――作品を作っていく中で意識していることがあれば教えてください

 見てくれる方がそれとわかるように、対象そのものの特徴をしっかり芯で表現できるかを意識しています。何を作るにしても、どうしても芯の小ささ、細さが一番制約的には大きいので、その制約の中で、いかに本物っぽくみんながわかってもらえる形にできるかが結構難しいですね。
 なおかつ折れないように。折れてしまえば作品ではないので。もちろん接着すればくっつけることもできるんですけれど、それをやってしまうと単純に面白くないので僕は途中で失敗しても絶対接着剤を使わないようにしています。

 

――私なら折れた時点で諦めて使ってしまうかもしれません……。折れてもう嫌だ、やりたくないみたいに思うこともあるのでしょうか。

 よく思いますよ。心も折れるなんて言いますけど、時間が巻き戻らないかなーとか思っちゃいます。でも、折れるものを折れないように作るっていうのが面白みでもあるので、大変でもあり、楽しいことでもありますね。
 あと、折れた分上手くなれるとも思ってます。鉛筆彫刻って指の力加減一つでかわるような感覚の世界で、数値化できるものじゃないので。どう折れるか知らないと、どう折らないように作るかもわからないので、折れる経験を積み重ねることが大事。折れるっていう失敗は嫌ですけれど一つの糧になると信じてます。

 

――はじめて10年になるとのことですが、感覚はつかめましたか?

 いや、まだまだ折れます。最近は見てくださる方がよりイメージしやすいかと思い、色鉛筆でも挑戦しているんですけれど、普通の鉛筆より断然難しいですね。

 

――色鉛筆は普通の黒芯の鉛筆と何が違うのでしょうか。

 芯が柔らかいんですよね。柔らかいくせに脆さもある。しかも油っぽいのでとても削りにくいんです。とにかく黒鉛筆より圧倒的に彫刻するのが難しい。けど綺麗なんですよ。
 さらに色によって成分を変えてたりもするのか、芯の硬さが少しずつ違うんです。私は赤色は割と得意ですが緑は苦手です。ほんとにちょっとの差なんですけどね。なので作りたいものはいっぱいありますが、できないことの方が多くまだまだ修行中です。

 

「芯鮮フルーツ」

 

「リコーダー」

 

――これからも新たな作品が見られることを楽しみにしています。

 あまり難しいことを考えずに、見てくれる人が面白いと喜んでくれて、自分も作ってて面白いと思える作品を作り続けていきたいです。
 多くの人が馴染みのある鉛筆を題材に、こんな作品が作れるということがもっと広がっていければ嬉しいなと思います。作品を実際に見てもらう機会もこれからどんどん増やしていきたいですね。

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