ストレイト・ストーリー(1999年) 静かな音楽と予告編に触れて「これは!」と思って、公開初日に有楽町の劇場に見に行くと、やっぱり大当たり。
大学のころ大阪の祖父母の家に暮らしていて、すぐ隣に映画館があったのでよく通いました。会話劇で物語が進んでいくしっとりとした邦画が好きなんですが、親の本棚にある昭和の漫画を読んでいたので古めのアニメのオタクだった時期もあります(笑)。
このアニメ作品は大学のとき、勧められて見ました。アイドルから女優へ転身しようとする女性が主人公のサイコスリラー。怖いものは苦手なんですけど、ストーリーと主題が素晴らしくて引き込まれました。私が生まれた年につくられた作品ですが、予言的な映画で、「推し」や「アイドル」などのモチーフで深く人間の精神に迫り、SNS依存の現代にも見劣りしない内容だと思います。
主人公の未麻(みま)が現実と夢、劇中劇を複雑に行き来するので、いったい何を見ているのか分からなくなってくる。一人称視点の複雑さ、不安定さ、夢と自他の境界線があいまいになる感覚をここまで描いているのはすごいと思う。
私もアナウンサーとして人前で見られる仕事をして、テレビに映っている自分が他人のように感じられたり、テレビで懸命に振る舞っている自分を別の自分が上から見ていたりする感覚を経験している。自分が自分でない感じ、どれが本当の自分か分からないという気持ち悪さを体験している。先日もう一度見返して、そういう感覚を絶妙に描いているなとあらためて共感しました。
最後はハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか。未麻が車のバックミラー越しに「私は本物だよ」とほほえむんです。鏡に真実が映るとポジティブに捉えることもできるし、鏡越しでしか見ていないという私たちの不確実性とも言える。「意味の無い作画は1枚もない」と話す今監督のインタビュー記事を読みましたが、だからこそあのテンポ感と熱量を出せるのだと思います。
今回描いた絵画では、女性の周囲の花は「純潔」「高貴さ」を意味するブルー。でも、実際手に持つ鏡には「生命」「情熱」を表す赤色の花だけが映っている。本来、併せ持っているもの。神格化された中にも、誰もが「赤」を秘めているのではという思いを表現しました。
(聞き手・阿部毅)
|
監督=今 敏
原作=竹内義和 脚本=村井さだゆき キャラクター原案=江口寿史 声の出演=岩男潤子、松本梨香、辻親八ほか
あずま・るか 1997年生まれ。朝日放送テレビのアナウンサーを経てパリに留学し、東大大学院美学芸術学研究室に所属。昨年の二科展に入選、今春初個展を開催。
|