読んでたのしい、当たってうれしい。

中西正男さん
とんとん 湯麺セット

中西正男さん

 スポーツ新聞に勤めていた頃から通い続けています。こぢんまりとした店の奥、壁に囲まれた横並びの2人席が僕の定位置。ここが空いていなかったら、食べるのを諦めて帰ります。他人の気配を気にしなくてもよい半個室のような空間で「湯麺(たんめん)セット」と向き合いたいからです。

 豚骨と鶏ガラでだしをとった湯麺のスープは、あっさり塩味。若い頃は少し物足りなく感じたけど、年を重ねるごとに心にまで染みわたるようになりました。具材は良い加減にゆでられたモヤシがたっぷり。そして、豚バラにエビが1尾。鉢の中からエビを探して麺の上に盛り付け直し、スマホで撮ってから食べ始める。かつてのイチローさんが打席前にしたように、これが僕にとっての「ルーティン」です。焼き飯もあっさりとしていて、湯麺を引き立ててくれます。

 執筆が大変な時や疲れた時にこのセットを食べると、銭湯や整体院に通った後のように心と体が回復します。押し付けのない素朴な味、店主ご夫妻の接客から伝わる真心、座席の配置とお店の雰囲気。これらの全てが僕の心の「鍵穴」に合致するんです。テレビや新聞の関係者、著名人の皆さんと外食する機会は多いですが、ここだけは一人で訪れたい特別なお店です。

                          (聞き手・山崎元子)

 ◆大阪市西区江戸堀1の21の5、江戸堀コーポ1階(☎06・6445・8419)。湯麺と焼き飯(小)900円=写真。ライス、焼き飯(レギュラー)のセットも。午前11時半~午後3時、5時半~9時。土は11時半~2時のみ。日祝休。


  なかにし・まさお 芸能記者。1974年生まれ、大阪府出身。デイリースポーツでお笑いを中心に取材。2012年に退社し、KOZOクリエイターズに所属。テレビ・ラジオなど多数のメディアで活躍している。

(2025年10月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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