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東洋医学書 九州国立博物館

「腹の虫」の挿絵に注目

「針聞書」茨木二介元行筆、76丁(152ページ)、1568年
「針聞書」茨木二介元行筆、76丁(152ページ)、1568年
「針聞書」茨木二介元行筆、76丁(152ページ)、1568年 「鍼灸秘伝書」足立元意筆、29丁(58ページ)、17世紀

 鍼灸(しんきゅう)や漢方薬などの東洋医学は古代、中国から伝わり、日本で独自に発展しました。その指南書は中国、朝鮮の医術や思想を色濃く反映しています。「日本とアジアの交流史」をテーマに絵画や工芸、古文書など1千件以上を所蔵する当館でも、収集の対象としています。

 戦国時代に書かれた鍼灸治療の専門書「針聞書(はりききがき)」は、当館開館の前々年の2003年に収集した歴史資料第1号。著者は、摂津国の医者とされる茨木二介元行(いばらきにすけげんぎょう)で、はりの打ち方やツボの効能、人体解剖図などを解説しています。

 中でも、体内に潜んで病を引き起こすという「腹の虫」63種の挿絵が目を引きます。これほど多くの虫が描かれた資料は珍しい。「気積(きしゃく)」は色欲を乱し、「脾臓(ひぞう)の虫」がいると熱中症に。ユーモラスな姿が人気を呼び、毎年啓蟄(けいちつ)の時期に合わせて公開しています。

 本作には、中国伝来の仏教や道教との関係も見られます。「蟯虫(ぎょうちゅう)」を説明するくだりには、60日に一度の庚申(こうしん)の夜に虫が人体を抜け出して閻魔(えんま)大王に悪事を報告するとありますが、これは道教の説に由来します。

 中世の人々にとって病は、正体の知れない恐ろしいものでした。ほぼ同じ時代の作とされる「鍼灸秘伝書」にも、腹の虫の絵が登場します。虫の存在を通して、人々は目に見えない体の不調に向き合ってきたのでしょう。この2冊から、当時の疾病観を読み解くことができます。

(聞き手・木谷恵吏)


 《九州国立博物館》 福岡県太宰府市石坂4の7の2(TEL050・5542・8600)。午前9時半~午後5時((金)(土)は8時まで。入館は30分前まで)。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。2点は2月13日~4月7日、文化交流展示室で。430円。

一瀬さん

主任研究員 一瀬智

 いちのせ・とも 歴史資料の調査研究に取り組む。九州歴史資料館を経て、2015年から現職。2019年7~9月の特別展「室町将軍」を担当。

(2019年2月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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