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私のイチオシコレクション

鎌倉市鏑木清方記念美術館

江戸趣味映す 妻への留め袖

「絽地扇面描絵柄江戸褄」明治末~大正、鏑木家の家紋「七星くずし」付き
「絽地扇面描絵柄江戸褄」明治末~大正、鏑木家の家紋「七星くずし」付き
「絽地扇面描絵柄江戸褄」明治末~大正、鏑木家の家紋「七星くずし」付き うちわ「のれん」1957年ごろ

 当館は美人画で知られる日本画家・鏑木清方(1878~1972)が晩年を過ごした旧宅跡地に1998年に開館。門や画室は当時の様子を再現しています。

 清方が描いた女性はほとんど着物姿です。駆け出しの挿絵画家だったころ、収入を補うために浴衣地の図案を作る仕事もしていた清方は、画中の人物の着物に、自ら考案した柄を緻密(ちみつ)に描きました。

 身内の浴衣や手ぬぐいなどの意匠を手がけることもあり、「絽地扇面描絵柄江戸褄(ろじせんめんかきえがらえどづま)」は妻・照(てる)にあつらえた留め袖です。柄はすそだけにあり、そのほかは無地。一見すると素っ気ないようにも感じます。

 ところが、照が着た姿を写した写真では印象がガラリと変わります。椅子に座った照のひざ下を、風に舞うような涼しげな扇が飾ります。みずみずしいグラデーションといい、女性を観察し尽くした清方ならではの絶妙な配置を感じます。

 扇面のリンドウやナデシコ、ヤブランなど秋を先取りした花は絵筆で描かれています。閉じた扇子が一つ、目を留めさせるポイントを置いているのが心憎いですね。全体に派手ではなく、東京で生まれ育った清方の洗練された江戸趣味が表れています。

 清方は絵の中に市井の情景や風俗を残そうとしました。自らの作品を美人画と呼ばれるのを好まず、庶民の生活を描く「社会画」と自負していたこともありました。

 うちわ「のれん」に描いたのも日常の何げない一コマ。のれん越しに「ちょいとあなた」とでも呼びかける声が聞こえてきそうです。

(聞き手・斉藤由夏)


 《鎌倉市鏑木清方記念美術館》 神奈川県鎌倉市雪ノ下1の5の25(問い合わせは0467・23・6405)。300円(特別展は450円)。月(祝の場合は翌平日)、展示替え期間など休み。2点は9月11日まで展示。

いまにし・あやこ

学芸員 今西彩子

 いまにし・あやこ 2010年から現職。開催中の企画展「夏から秋へ 季節のよそおい」ほか、日本画や多色摺(ず)り木版画ワークショップなども担当。

鎌倉市鏑木清方記念美術館
http://www.kamakura-arts.or.jp/kaburaki/

(2022年7月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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