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街の十八番

得水軒@麹町

修復掛け軸にあった先祖の名

江戸時代の絵巻物。はけでたたき、糊をつけた裏打ち紙をなじませる
江戸時代の絵巻物。はけでたたき、糊をつけた裏打ち紙をなじませる
江戸時代の絵巻物。はけでたたき、糊をつけた裏打ち紙をなじませる 掛け軸に巻かれていた「軸木」。4代目の名が記されている

 オフィスの並ぶ麹町のビルの7階。時代を感じさせるのれんをくぐると、掛け軸や巻物などの表具を扱う「得水(とくすい)軒」はある。

 創業は江戸中期。11代遠藤三右衛門さん(78)は「周辺に多かった大名屋敷の掛け軸などを仕立て、修復していたんだろう」と話す。関東大震災をきっかけに文化財保存修理などの仕事が増えた。

 表具の仕立てと修復には、今も小麦粉でんぷんで作る正麩糊(しょうふのり)を使う。熟成した古糊をつけた紙で、作品を補強する「裏打ち」を施すと、しなやかな仕上がりになる。はけで湿らせれば、糊がゆるんで修復の際にきれいにはがせる。破れや虫食いを繕うと、傷みのひどかった作品が立派になる。まさに「よみがえり」の技だ。

 17年前のある日、修復に預かった掛け軸の中の軸木に「文化三丙寅年」(1806年)の墨書と、仕立て直した証しの4代目の名を見つけた。偶然の出会いに感激し、「祖父の代で止まっていた三右衛門を復活させよう」と名を継ぐことを決めた。現在、長男ら4人の職人とともに、のれんと技を守っている。

(文・写真 井上優子)


 ◆東京都千代田区麹町3の5の7階(TEL03・3265・8788)。午前9時~午後6時。(土)(日)(祝)休み。麹町駅。仕立て・修復代は現品確認の上、応相談。

(2017年9月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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