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ひとえきがたり

高尾駅(東京都、JR中央線、京王高尾線)

弾痕が伝える戦争の惨禍

社寺風の北口駅舎。お盆はお墓参りの人々でにぎわう=東京都八王子市高尾町
社寺風の北口駅舎。お盆はお墓参りの人々でにぎわう=東京都八王子市高尾町
社寺風の北口駅舎。お盆はお墓参りの人々でにぎわう=東京都八王子市高尾町 ホームの屋根の支柱は一部ペンキをはがし、弾痕を見やすくした=東京都八王子市高尾町 地図

 通勤や通学客、登山客らが入り交じる1、2番ホーム。その屋根の支柱に、弾痕が生々しく残る。太平洋戦争中の1945年5月と7月、高尾駅(当時の浅川駅)が米軍機の機銃掃射を受けたときのものだ。「こんな静かな郊外も狙われたんです」と東京・多摩地区の戦災を調査する教員の斉藤勉さん(57)は話す。

 駅は1901年に開業した。木造の格式ある趣の北口駅舎は27年、大正天皇の葬儀の際に新宿御苑に設置した仮設停車場を移築したもの。終戦間際、8月2日の八王子空襲でも駅舎は残った。

 3日後の5日、高尾駅を出た長野行きの列車が近くの湯(い)の花トンネル付近で機銃掃射を受けた。60人以上が死亡した。

 車中にいた当時13歳の黒柳美恵子さん(83)は二つ上の姉を亡くした。大田区久が原から母の実家の長野県飯田市へ、姉妹で疎開に行く途中だった。「暑い日でね」と記憶をたぐる。飛行機が見えたとたん、バリバリバリと音が響いた。「姉が『美恵子』って言った声は聞こえたの」。何も知らない両親のもとに、黒柳さんは1人で帰った。「戦争で亡くなるのは、みんな誰かの家族なのよ」

 線路脇に慰霊碑がたつ。斉藤さんらが主宰する「いのはな慰霊の集い」は明日で32回目。今年も平和を誓う。

文 塩見圭撮影 高井正彦 

 沿線ぶらり  

 高尾駅(東京都八王子市)はJR中央線(東京駅~名古屋駅)と京王高尾線(北野駅~高尾山口駅)が乗り入れる。

 北口駅舎には、貴賓室を改築したカフェ&パン屋Ichigendoが併設され、きな粉クリームが入った高尾天狗パンが人気。

 高尾山には、京王高尾駅からひと駅の高尾山口駅に行って歩くか、高尾山口駅から徒歩5分の清滝駅でケーブルカーに。

 8月7日~9日、八王子駅周辺で八王子まつり。山車を寄せ、おはやしを競い合う「ぶっつけ」(8、9日)が見どころ。問い合わせは実行委(042・648・1531)。

 

興味津々
天狗像

 駅の3・4番ホームに鎮座する天狗像。高さ2.4メートル、鼻の長さ1.2メートル、重さ18トンの石像は1978年、天狗伝説のある高尾山にちなみ高尾山薬王院と八王子観光協会が設置。交通安全祈願の法要も。夜はライトアップされ、迫力ある顔が東京方面からの客を出迎える。

(2015年8月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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