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ひとえきがたり

増毛(ましけ)駅(北海道、JR留萌(るもい)線)

健さん降りたホーム 誇り

銀色の車体に赤いラインが入った列車をカメラに収めようと鉄道ファンが駆け寄る=12月4日、北海道増毛町弁天町1丁目
銀色の車体に赤いラインが入った列車をカメラに収めようと鉄道ファンが駆け寄る=12月4日、北海道増毛町弁天町1丁目
銀色の車体に赤いラインが入った列車をカメラに収めようと鉄道ファンが駆け寄る=12月4日、北海道増毛町弁天町1丁目 地図

 1両編成の列車が雪煙をあげてホームに滑り込んでいく。11月下旬、例年より早く寒気に覆われた北海道。留萌線の終着駅を降りると、雪原の中に木造平屋建ての駅舎がたたずんでいた。線路の先には終点を示す車止め標識があり、駅から200メートル歩けば増毛港の岸壁に着く。

 昨年11月10日に亡くなった高倉健の主演映画「駅 STATION」(1981年)の舞台になった。高倉演じる刑事の英次が降り立ったのもこの駅だ。倍賞千恵子扮する居酒屋女将(おかみ)の桐子と出会った改札口やホームが残る。撮影当時は駅員がいたが、84年に駅は無人化され、駅舎の一部が取り壊された。

 駅舎の向かいには、映画に登場した風待(かざまち)食堂(現観光案内所)が立つ。風待食堂は本当は雑貨店だった。元店主の多田令子さん(77)は「健さんは、気さくな人だった」と懐かしむ。10月28日から11月10日まで、健さんの一周忌を迎えて置いた記帳には、撮影のエキストラに参加した町民も含め428人の名が並んだ。

 駅開業の1921年当時は、ニシンの輸送拠点としてにぎわった。「国鉄時代は増毛駅に転車台があった」と留萌駅長の大野敏路さん(58)。だがその後、沿線の過疎化や乗用車の普及により運行本数は減った。留萌―増毛駅間は現在1日13本、1列車あたりの乗客は平均3人。バスが線路に並走し年間約2億700万円の赤字に。今年8月、JR北海道が同区間を来年度中に廃止する方針を示した。以降、鉄道ファンが急増している。

 地元の老舗、国稀(くにまれ)酒造4代目の本間桜さん(55)は「廃線は寂しい。でも終着駅、映画のロケ地という素材を生かし、駅舎の復元など新たな街づくりができれば」と願う。健さんも、駅の再出発を見守っているに違いない。

文 石井広子撮影 谷本結利 

 沿線ぶらり  

 JR留萌線は深川駅(北海道深川市)から留萌駅(留萌市)を経て、増毛駅(増毛町)を結ぶ66.8キロ。

 増毛駅から徒歩5分の国稀酒造(TEL0164・53・1050)は1882年創業。映画では英次の実家という設定で使われた。映画のパネルも展示。今年の9月から、駅舎写真入りラベルを貼った日本酒「終着駅 増毛」(300ミリリットル540円)を販売している。

 阿分(あふん)駅と信砂(のぶしゃ)駅の間にある阿分稲荷神社は、英次と桐子が初詣をする場面で登場した。

 留萌駅から車で10分の黄金(おうごん)岬海浜公園は「日本夕陽百選」に選ばれた名所。問い合わせは留萌観光協会(0164・43・6817)。

 

興味津々
風待食堂

 映画ですず子(烏丸せつこ)が働いていた風待食堂は昭和8(1933)年築。今は観光案内所で、4月下旬~11月上旬に営業。

(2015年12月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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