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ひとえきがたり

豊後竹田駅(大分県、JR豊肥線)

「荒城の月」に迎えられ故郷実感

豊後竹田駅
桜まつりでにぎわう駅前ロータリー。城をイメージさせる駅舎は1986年に建て替えられた
豊後竹田駅 地図

 ♪春高楼の花の宴 めぐる盃(さかずき)影さして

 列車が駅に近づくと「荒城の月」がホームに流れる。作曲者、滝廉太郎は12歳から14歳まで竹田で暮らしていた。そのころに登った岡城で得た曲想が、やがて名曲誕生につながったとされる。

 〈竹田の駅では、豊肥線の汽車が着いて出てゆくたびに、「荒城の月」の唱歌を聞かせます〉。1953年に発表された川端康成の小説「波千鳥」の一節だ。発車の合図としてメロディーが流されるようになったのは51年のこと。改札係の駅員が列車が発着するたびにレコードをかけていた。12年間で90枚のレコードがすりきれたという資料もある。

 「駅で聞くと、ああ、帰ってきたなあって。小さい頃から聞き慣れてますから」と市職員の後藤惟稔(これとし)さん(52)。市民にとって、ふるさとを意識させる特別な曲だという。

 当初は、山田耕筰による編曲版の音源を使っていた。しかし88年からは住民の要望などを受け、市少年少女合唱団が歌う廉太郎作の原曲が、列車接近時に流されるようになった。無伴奏で編曲版よりテンポが速く、「はなのえん」の「え」の音を半音上げて歌っている。

 合唱団を指導した後藤誠子さん(80)は原曲に強い思いがある。「竹田は昔から歌舞や謡曲が盛んな街。廉太郎先生の思いを大切にしたいのです」。市内の滝廉太郎記念館で仲間と廉太郎の曲を歌い継いでいる。

 文 竹越萌子撮影 比田勝大直

 

沿線ぶらり

 JR豊肥線は熊本駅(熊本市)と大分駅(大分市)を結ぶ148キロ。2012年の豪雨でトンネルが破損し、宮地―豊後竹田間が不通に。駅舎に被害はなかったが復旧に約1年かかった。

 岡城跡へは豊後竹田駅から車で5分。築城は平安末期といわれるが、明治初期に壊され、今は城壁のみが残る。300円。

 4駅隣の三重町駅から車で20分の稲積水中鍾乳洞(TEL0974・26・2468)は、日本最長の水中鍾乳洞といわれている。今年2月の調査で、従来確認されていた約1000メートルより約300メートル長いことがわかった。1200円。

 

 興味津々
サンチャゴの鐘
 

 竹田は戦国時代にキリスト教が広まった。今もキリシタン文化をしのばせる遺産が残る。市立歴史資料館(TEL0974・63・1923)に展示されている銅鐘「サンチャゴの鐘」はその一つ。昨年、鐘の音をイメージして船村徹氏が作った曲が駅の発車メロディーになった。

(2014年4月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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