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ひとえきがたり

人丸前(ひとまるまえ)駅
(兵庫県、山陽電鉄本線)

ホーム貫く日本標準時子午線

明石市立天文科学館のシンボル、時計塔が日本標準時子午線上にそびえる
明石市立天文科学館のシンボル、時計塔が日本標準時子午線上にそびえる
明石市立天文科学館のシンボル、時計塔が日本標準時子午線上にそびえる 人丸前駅

 梅雨の雲を割って太陽が顔を出した。ホームを横切る「東経135度子午線」と書かれた白線を照らす。1日の乗降客は約1300人。本線と支線を合わせた全49駅中、下から数えた方が早い。しかし1991年、高架化に伴いホームを延長したことで、日本の標準時の基準となる子午線が通る全国唯一の駅となった。

 駅を通る東経135度線は地図上とは違い、天体の動きを測った「天文測量」で定めたものだ。白線を南にたどれば明石海峡。北はすぐ、高さ約54メートルの時計塔にぶつかる。明石市立天文科学館だ。「電車から時計塔が見えると、帰ってきたなと感じると、みなさん言ってくれます」と学芸員の鈴木康史さん(43)。

 日本の標準時が制定されたのは1886(明治19)年。それから四半世紀ほど経た1910年、尋常小学校教員らが初の子午線標識を建てた。「時のまち」明石の歩みの始まりだ。天文科学館の開館は60年。6月10日の「時の記念日」のことだ。その日の前後の約2週間は毎年「時のウィーク」として、館の無料開放や「子午線通過記念証」配布のほか、さまざまなイベントが市内で催される。

 「市がアンケートで明石の宝物を市民に聞いたところ明石焼や明石鯛(だい)、明石たこを抑えて、天文科学館が1位になったそうです」と明石・時感動推進会議の宮本享明さん(48)が胸を張った。

 午後11時54分。上りの最終電車が東経135度線を横切り、ホームに滑り込んできた。闇に照らし出された時計塔の文字盤があと数分で、新しい一日の始まりを告げる。

文 河瀬久美撮影 渡辺瑞男 

沿線ぶらり

 山陽電鉄本線は西代駅(神戸市)と山陽姫路駅(兵庫県姫路市)を結ぶ54.7キロ。

 人丸前駅から徒歩圏内の東経135度線沿いに子午線標識が並ぶ。天文科学館の裏手には、日本の異称「あきつ島」を象徴するトンボを乗せたトンボの標識。駅の南、通称子午線交番の前には尋常小学校教員らが1910年に建てた大日本中央標準時子午線通過地識標がある。

 隣の山陽明石駅には魚介類を扱う店を中心に100店以上が軒を連ねる魚の棚商店街が。駅周辺には名物明石焼(玉子焼)の店も多い。問い合わせは明石観光協会(078・918・5080)。

 

 興味津々
 
 

 明石市立天文科学館のキャラクター「軌道星隊シゴセンジャー」=写真手前の2人=は「時を守る戦士」。宿敵のブラック星博士=写真奥=とともに館内外の催しでも活躍。時の記念日に山陽電車の車内で子午線通過記念証を配ったことも。

(2014年6月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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