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建モノがたり

○と□(マルとシカク)

音響抜群 プロセスも楽しむ

○の型枠は「地球儀にヒントを得て、平面で作った」と大野さん。通行人や車の接触を防ぐ役目も果たす水庭は、明人さんがきれいに掃除している。
○の型枠は「地球儀にヒントを得て、平面で作った」と大野さん。通行人や車の接触を防ぐ役目も果たす水庭は、明人さんがきれいに掃除している。
○の型枠は「地球儀にヒントを得て、平面で作った」と大野さん。通行人や車の接触を防ぐ役目も果たす水庭は、明人さんがきれいに掃除している。 ○の内部。壁につけた凹凸、クッションや棚、ピアノなどを置くことで、響きすぎる音を吸収したり反響の角度を調整したりする。下の窓からは揺らぐ水面の反射光が壁に映り込むことも

水に浮かんでいるような、コンクリートの球体。住宅街の一角にある「大きな地球儀」は何? 中はどうなっているの?

 ピアノ講師の山本玲さん(50)の「仕事場」は閑静な住宅街にある直径5・5メートルの球体の中だ。新居を建てる際、ホールのように響く音楽室を希望。建築家の大野靖さん(53)に相談を持ちかけた。

 とはいえ敷地は一般的な広さ。豊かな音響空間を作るには「これしかない」と大野さんが考えたのが、防音効果のあるコンクリート製の球だった。球体は様々な音響障害があるものの、響きは抜群。障害は壁を凹凸にしたり布製品を置いたりすれば除去できる。球体の音楽室と直方体二つの居住空間を透明な廊下でつなぐ案を、断られる覚悟で提示した。

 意外にも玲さんと夫・明人さん(51)は乗り気に。ここから設計に1年、着工後さらに半年。「家造りはプロセスも楽しまないと」と笑う大野さんの言葉どおりだった。

 「○と□」と名付けたのは明人さん。○と□をモチーフにした特注のドアノブは、家族で鉄を打った。床板やテーブルの天板、庭木も大野さんと探しに行った。二人は時間を作って電気や機械工事などの打ち合わせにも参加、建築中の現場に通った。工事関係者とも酒を酌み交わし、思いを共有した。「できあがるのがさみしかった」と玲さん。落成した○に関係者を招いてのコンサートは、その後も数回続いた。

 玲さんに1曲弾いてもらった。音が体に響き、一音一音に包み込まれるような心地よさ。「大聖堂にいるよう」と大野さん。明人さんも「天気や季節で音が変わって飽きない」と顔をほころばせた。


(山田愛・写真も)

 DATA

  設計:大野靖/ストゥーディオ・クレアティーヴォ
  階数:地上2階
  用途:個人住宅
  完成:2010年12月

 《最寄り》 浜松駅からバス


建モノがたり

 近くの浜松城公園(問い合わせは053・457・0088)には、徳川家康が天下統一の足がかりとし「出世城」と呼ばれた居城の天守閣と天守門が復元されている。広大な公園の中には、浜松市美術館や立礼席で抹茶を楽しめる茶室「松韻亭」も。

(2021年6月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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