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建モノがたり

富士屋ホテル(神奈川県箱根町)

老舗の名建築 支える営繕さん

本館の正面。1997年に西洋館、食堂棟などとともに国の登録有形文化財に
本館の正面。1997年に西洋館、食堂棟などとともに国の登録有形文化財に
本館の正面。1997年に西洋館、食堂棟などとともに国の登録有形文化財に 本館階段の欄干を飾る木製の竜

 国内外の著名人も訪れた箱根のランドマーク。多くが文化財でもある和洋折衷の建築が魅力を保つ陰には……。

 1878年創業、約2万5千平方メートルの敷地に多くの建物が立ち並ぶ富士屋ホテル。趣向を凝らした内外装は2018年から2年余りかけた大改修後も変わらない。

 城のような唐破風の屋根に寺社ふうの飾り板が付いた本館に入る回転扉の上には、鳳凰やクジャクの彫刻が出迎える。赤く塗られた階段の欄干には、二つの角と長いひげを持つ黒い竜。

 「修理の跡が見えますか?」。広報担当の鈴木香さん(49)が指さす。目を凝らすと、竜のひげの先端部が接着剤で継いである。「折れてしまったのを営繕さんが修理してくれたんですよ」

 「営繕さん」は管理部施設管理課のうち、備品や建具、家具、内装などの製作や補修を担う5人のこと。創業以来、組織は変わっても親しみを込めて呼ばれている。

 竜のひげを直した施設管理課長の赤木孝さん(41)は高卒後入社し、植物の温室係から手先の器用さや勤勉さが認められ、20歳の時に営繕に。心がけるのは、ホテルを運営する一人として動くことだという。「ロビー近くの作業ならお客様の目につかないよう、早朝出勤して7時までには仕事にかかります」

 時間があれば館内外を見回り、不具合や改善の余地がないか点検。赤い階段の手すりは自らの発案で取り付けた。

 最近の「大仕事」は、純日本建築「旧御用邸 菊華荘」に造った貸し切り用ヒノキ風呂。ふつうなら専門業者に依頼することも、まずは「細かい話をしなくてもあうんの呼吸で進む」と信頼される営繕に相談される。大工出身者ら3人がかりで2カ月かけ、17年12月に完成させた。

 「歴史ある建物を次世代に渡せるように」営繕さんの仕事は続く。


(栗原琴江、写真も)

 DATA

 階数:地上2階、地下1階(本館)ほか
 用途:宿泊施設
 完成:1891年(同)ほか

《最寄り駅》:宮ノ下


建モノがたり


 敷地内の国道1号沿いにあるベーカリー&スイーツ ピコット(問い合わせは0460・82・5541)では、ホテルで焼き上げたパンやクッキーなどを販売する。1978年にジョン・レノンが1週間滞在した際にティーラウンジで食べたというアップルパイも。午前9時~午後5時(イートインは4時まで)。

(2022年6月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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