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建モノがたり

上勝町ゼロ・ウェイストセンター(徳島県上勝町)

ごみステーションは問いかける

再利用した様々な窓枠がパッチワークのよう。「この窓はうちで出した」など懐かしむ声が聞かれるという
再利用した様々な窓枠がパッチワークのよう。「この窓はうちで出した」など懐かしむ声が聞かれるという
再利用した様々な窓枠がパッチワークのよう。「この窓はうちで出した」など懐かしむ声が聞かれるという 湾曲部分がごみステーション。ホテル(円の部分)の宿泊客もチェックアウト時には自分でごみを分別する©Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO

「ごみゼロ宣言」で知られる山あいの町。ハテナマークの建物に、こっちが聞きたい。どうしてこうなった?

 約20年前からごみ減量に取り組む上勝町。悩みは過疎化、高齢化だ。徳島市で会社を経営する田中達也さん(53)は10年ほど前、前町長から地域おこしの相談を受けた。

 案内されて回った町内で一番感銘を受けたのが、町民がごみを持ち込み34種類(現在は45種類)に分別するステーションだった。古いプレハブ小屋だったが取り組みは最先端。町おこしの中心にできないか。

 同じころ、町内にビール工房(「ちょっと道草」参照)を開いた。その設計を依頼した建築家・中村拓志さん(48)にごみステーションについて話したところ、町民が集まる場や町外の見学者を迎える場も備えた施設の構想へと発展、町に提案した。

 ごみの分別、保管、再生場所、ホール、4室のホテルなどがある「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」。設計した中村さんは建築の面からもごみ最小化を目指した。

 柱や梁には町内の杉材を使った。廃棄分を減らすため加工は最小限に。将来の改修も考えて木と金属を分別しやすい構造にしてある。

 家屋取り壊し現場に駆けつけて廃材を確保。窓枠や戸は広報誌で町民に呼びかけ、約700枚集まった。それぞれの状態やサイズを一覧にし、パッチワークのようにあてはめていった。「普通ならメーカーと品番を指定すればいいところ。大変でしたが、パズルみたいで楽しみました」と中村さんは振り返る。ハテナマークは、動線や駐車場の位置、地形や地盤を考慮した結果だ。

 「せっかくこういう形になったので、上勝から世界に問いかけたい」と田中さんは話した。

(鈴木麻純)

 DATA

  設計:中村拓志&NAP建築設計事務所
  階数:ホテルは地上2階、ほかは地上1階
  用途:ごみ集積所、集会所、ホテルなど
  完成:2020年

 《最寄り駅》 徳島駅から車


建モノがたり

 田中達也さんが経営するライズ&ウィン ブルーイング カンパニー(問い合わせは0885・45・0688)へは車で約5分。醸造過程で出る廃棄物を肥料として再利用しながらビールの生産・販売を行う。約10種類のビール、町内産の茶や米を量り売りするほか、食事やバーベキューも楽しめる。午前11時~午後5時((土)(日)(祝)は午前10時~午後6時)。(月)(火)休み。

(2022年9月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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