読んでたのしい、当たってうれしい。

建モノがたり

地中図書館(千葉県木更津市)

大地に抱かれ さまよいながら

入館はホームページでメンバーシップ登録(年会費、中学生以上千円)後に予約。開館は正午~午後5時(ビジター利用)。原則火水休み

 豊かな大地の下に潜む図書館。建築と自然がひとつになっているこの場所で、本に出会い、ゆっくりと想像を巡らす。

 千葉県木更津市の丘陵地に広がる体験型ファーム「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」。広大な敷地に食と農、アートを通して、自然と人の共生を目指す施設が点在する。

 その一角に「地中図書館」がある。設計した建築家の中村拓志さん(51)は、音楽家で運営会社代表の小林武史さんから「『さまよう』をコンセプトにしてほしい」と依頼された。最初は驚いたが、「効率や結果を急ぐ現代社会にあって、迷ってもいいというおおらかさを大切にしたい」と共鳴した。

 谷筋の地形を生かし、「虫や植物のために表土を開放する」という考えのもと、大地の下に建物を埋め込んだ。外観は樹木や芝が茂る地面に覆われ、近づくまで入り口に気づかない。中庭を進むと、ガラス越しにかすかな光に包まれ、ゆるやかに湾曲する空間が見えてくる。建築と自然の境界があいまいになる感覚だ。

 館内に入ると、「本のコリドー」と呼ばれる通路が左右に延びる。内部は柱や梁(はり)といった建築的要素がでないように配慮した。斜面側の土を受け止める壁と放射状に配置された袖壁が屋根を支える仕組みだ。

 通路に沿うように本棚が設置され、ガラス張りになった建物の入り口から優しい光が差し込む。本棚の奥に書斎やソファ席があり、こもるような感覚で読書にひたることができる。

 建物の中央の通路を抜けると、「読み聞かせホール」がある。ドーム形で、天井の丸い開口部から空がのぞく。中村さんは「子どもを包み込む胎内のイメージ。ここから見上げると、宇宙から青い地球を眺める気分」と話す。

 天井を支え、書棚にもなっている桟は、互いに寄りかかる「助け合い構造」。みんなで支え合えば社会は成り立つ、という思いが込められている。

 蔵書は約3500冊。選書家の川上洋平さんと館長の山名隆也さん(26)が選んだ本が自然、食、アート、建築、文学などのテーマごとに並ぶ。検索機はなく、訪れた人がさまよいながら思いがけない一冊に出会う。

 来館者は日に最大50人に限定。光の揺らぎと静寂のなか、読書体験が、自然と人の距離を縮めてくれる。

(片山知愛、写真も)

 DATA

  設計:中村拓志&NAP建築設計事務所
  階数:地上1階(地中構造)
  用途:図書館
  完成:2022年

 《最寄り駅》:木更津駅からバス


建モノがたり

 クルックフィールズ(☎0438・53・8776)には、自家菜園の野菜や放牧牛の乳製品を味わえるレストランやベーカリー、宿泊施設も。入場料は中学生以上800円(ビジター料金)、小学生400円(同)。午前10時~午後5時、原則火水休み。

 

2025年12月2日、朝日新聞夕刊から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。

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