田園の原風景である屋敷林「居久根(いぐね)」の記憶を大切にしたランドマーク。交流と彩りが生まれる場を目指している。
仙台駅から地下鉄で約15分。荒井駅に近い交差点沿いに、木々に囲まれ、鉄柱が周りを守るように立っている建物が見えてくる。
複合商業ビル「IGOONE ARAI」(イグーネ荒井)。2階建てのビルに、仙台を拠点とするカフェやヘアサロン、雑貨店、コワーキングスペースなどが入る。
建設計画がスタートした当時、駅が開業したばかりの新興住宅地だった荒井地区には目立った建物はほとんどなかった。運営会社の開日ホールディングスの三浦良太社長(46)は「人が集い、滞留できる場。日常をちょっと特別にする場を目指した」と話す。
大切にしたのは、建築が地域の子どもたちの原風景になるという思いだ。仙台平野の田園地帯では風雪から家や暮らしを守るため、屋敷を取り囲むように樹木を植えた屋敷林「居久根」のある風景が古くから見られた。
今は減ってしまったこの居久根の風景と記憶の復活を目指し、建物の外周にアカマツやモミジなど地元に自生する植物を中心に約150種を植栽し、ビル名も「居久根」にちなんだ。
外観はどこから見ても建物の正面が柔らかい感じになるよう、緩やかなつながりをイメージした曲線的な屋根にした。建物を守るように斜めに立つ鉄柱は、補強材の役割を果たしている。通常は柱や補強材を活用するなどして耐震強化を行うが、外の鉄柱がその役割を担うため、室内は柱がない開放感あふれる空間になった。
また鉄柱を斜めにすることでできた1階と2階の空間には、テラス席を設けた。ビル内部は空間を壁ではなくガラスで仕切るなどして、建物全体を一つの空間として表現した。
設計した前田圭介さん(51)は「建築のハード面と合わせて内装の設計をさせてもらえたことが一体感が生まれた理由」と話す。子ども連れの家族や近所の老夫婦、作業場のように使うビジネスパーソンなど来訪者の年代は幅広い。地元のアーティストのイベントも定期的に開催している。
かつて田園地帯に浮かぶように存在した居久根が住宅地によみがえり、人々が集うランドマークになろうとしている。
(中山幸穂、写真も)
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DATA 設計:前田圭介/UID 《最寄り駅》:荒井 |
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荒井駅からバスで約10分のせんだい農業園芸センター みどりの杜(☎022・288・0811)は、農業と園芸の交流拠点。収穫体験や四季折々の花を楽しめる。午前9時~午後4時(3~10月は5時まで)。原則(月)(祝休の場合は翌平日)と、29日~1月5日休み。