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アートリップ

トルクベンチ
中村哲也作(東京都江東区)

造船所の貨車 座れる彫刻に

タイトルの「トルク」は「回転する力」を意味する。写真の反対側にも座れる。幅約4×高さ1・5メートル=横関一浩撮影
タイトルの「トルク」は「回転する力」を意味する。写真の反対側にも座れる。幅約4×高さ1・5メートル=横関一浩撮影

 スーツ姿のサラリーマンや、商業施設に向かう家族が行き交う東京のウォーターフロント、豊洲。オフィスビル「豊洲フォレシア」前で、今にも前に進みそうな車輪がついたカラフルな物体を見つけた。実はこれ、ベンチなのだ。「家具作家ではなく芸術家が作るからには、『これ座っていいの?』という『違和感』を感じてほしくて」と、作者で現代美術家の中村哲也さん(51)。

 豊洲2・3丁目は1920年代初頭から30年代初頭にかけ、隅田川河口を埋め立てて誕生。39年に東京石川島造船所(現IHI)が工場を新設したのを機に、造船業やエネルギー産業の工業地帯として発展。2002年に造船所は閉鎖されたが、歴史を後世に伝えようと、豊洲2・3丁目地区まちづくり協議会主導で、産業遺構を使ったアートなど全57点が各所に配置された。その中の一つが14年制作の本作だ。「なぜ車輪?という疑問から、豊洲の歴史をたどってもらえたら」と中村さん。

 車輪とレールは、かつてこの地を走っていた貨車の部品。米国で1930年代に流行したカスタムカー「ホットロッド」で多用された彩色法を参考にした。子どもに好まれる赤、黄色を使ったという。

 撮影時はあいにくの雨。よくこのベンチでひと休みするという地元の中学生は「ぬれてて座れないや」と残念そうに梅雨空を見上げていた。

(下島智子)

 《アクセス》豊洲駅から徒歩5分。


ぶらり発見

 作品から徒歩7分、水上バス豊洲乗り場から漫画家・松本零士デザインのヒミコに乗船。浅草まで40分間の船旅を。午後0時45分と2時45分。1200円。原則、毎月第2(火)(水)休み(8月は無休)。問い合わせは東京都観光汽船( http://www.suijobus.co.jp/ )。

鰺鱧フライ定食 豊洲駅からゆりかもめで2駅、市場前駅に。豊洲市場の小田保 豊洲本店(問い合わせは6633・0182)の「鰺鱧フライ定食」(写真、1350円)は9月末まで。午前5時半~午後2時(ラストオーダー)。(日)(祝)休み。

(2019年7月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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