五十三次 京三條橋
江戸・日本橋から約500キロ、東海道五十三次の終着点は京の玄関口・三条大橋。東山や八坂の塔を背景に、頭に薪をのせて売り歩く大原女、茶筅をさした竹棒をかつぐ茶筅売り、衣を頭にかぶった被衣姿の高貴な女性が行き交う。
夜空に浮かぶ月の大きさや形には、画家の個性が表れる。本作を手がけた日本画家の田渕俊夫(1941~)は、透明感ある色彩の空に満月を多く描く。
本作は、名古屋・栄のテレビ塔の下から見た景色をほぼ忠実に描いた。ただ月が昇る位置は現実と異なる。「月の美しさに感動し、本来は別の位置に昇る月をこの場面に持ってきたのでは」と村石桃子学芸員。街路灯を意図的に高くしたことで、「街路灯を見上げたら月があった」というような作家の「発見」も読み取れるという。
田渕は、本作以外にも「刻」と題した風景画を複数発表している。田園風景にも満月を描いた。「どこでもいつの時代でも月は昇る。空には変わらない時間の流れが表現されているようです」と村石さんは話す。