読んでたのしい、当たってうれしい。

美博ノート

「セーヌ河畔」

フランスに生きた日本人画家 木村忠太の世界(ヤマザキマザック美術館)

「セーヌ河畔」

 ヤマザキマザック美術館の創立者、故・山崎照幸氏は、画家の木村忠太(1917~87)を高く評価し、油彩の大作3点を購入した。75年の「セーヌ河畔」はそのうちのひとつだ。

 会場で絵の前に立つと、鮮やかな赤に圧倒される。色も形も自由奔放。黒い描線はキャンバスからはみ出している。「70年代に入り、画家として軌道に乗った頃の作品です」と主任学芸員の吉村有子さんは話す。

 木村の絵には必ず、建物や植物など、その風景を見たときに印象的だったものが描き込まれている。本作をじっと眺めていると、画面左の四角い枠の中に、セーヌ川や橋、河畔の建物が見えてくる。「赤は夕焼けの色でしょうか。左上がほの暗く、日が落ちつつあるのかも」と吉村さん。想像を膨らませるのが楽しい。

(2020年1月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

美博ノートの新着記事

  • 五十三次 京三條橋 江戸・日本橋から約500キロ、東海道五十三次の終着点は京の玄関口・三条大橋。東山や八坂の塔を背景に、頭に薪をのせて売り歩く大原女、茶筅をさした竹棒をかつぐ茶筅売り、衣を頭にかぶった被衣姿の高貴な女性が行き交う。

  • 五十三次 府中 日暮れて間もない時分、遊郭の入り口で、ちょうちんを持った女性と馬上の遊客が言葉をかわす。馬の尻にはひもでつるされた馬鈴。「りんりん」とリズム良く響かせながらやってきたのだろうか

  • 五十三次 大磯 女性を乗せ、海沿いの道を進む駕籠(かご)。担ぎ手たちが「ほい、ほい」と掛け声を出して進んだことから「ほい駕籠」とも呼ばれた。

  • 三菱十字号 トヨタ博物館「お蔵出し展」

新着コラム