読んでたのしい、当たってうれしい。

美博ノート

能面 節木増 河内家重作(のうめん ふしきぞう かわちいえしげ)

近世能装束の世界 用の美 武家貴族の美意識(岐阜市歴史博物館)

能面 節木増 河内家重作 江戸時代初期
能面 節木増 河内家重作 江戸時代初期

 「面」と呼ばれる能面は、江戸時代初期までに85種類ほどが完成していた。「節木増」はシテ方の流派の一つ宝生流が独自に使用する面で、観世流の「若女」、金春・喜多流の「小面」、金剛流の「孫次郎」と同様に、若い女性の役に用いられる。

 流派の家元などに伝えられ、それぞれの芸風を象徴する面を「本面」と呼ぶが、節木増の本面には、鼻の付け根の左側に影がある。用材の節のためともヤニが出たためとも伝わるが、これがかえって風情があるとされた。本作も同じ箇所にうっすらと影がみえる。

 学芸員の社本沙也香さんは、「本作は、お歯黒に切れ長の目、口角の上がった口元と、作られた時代の美が表現されています。同じ節木増の面でも、微妙に印象が違います」と話す。同じく若い女性を表現した小面に比べると、節木増の方が全体的に大人びた印象だという。

岐阜市歴史博物館
https://www.rekihaku.gifu.gifu.jp/

(2021年8月3日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

美博ノートの新着記事

  • 京都加茂川筋 川浚(かわざらえ)略図 河原にのぼりが林立し、そろいの衣装を着た大勢の人々が荷車を引く。一見すると祭りのようだが、荷車に積み込まれているのは土砂にみえる。

  • 見世物 大虎 本作に描かれたトラは、1861年にオランダ人が横浜港に連れてきたという。眼光鋭く、鋭い爪の姿を描き、天竺(インド)生まれで身の丈「七尺」(2㍍超)、「立て」「回れ」などの芸ができるなどと記されている。

  • 海陸御固(おかため)御役人附 江戸時代、一枚刷りでニュースを伝えた「瓦版」。とりわけ幕末の1853年、開国を迫る米国艦隊の来航という一大事には大量の瓦版が出回った。

  • 四季草花図屛風 右隻にタンポポ、カキツバタ、タチアオイ、左隻にキキョウ、キク、ツワブキ……。移ろう季節を流れるように表現した、図案家・画家の神坂雪佳(1866~1942)晩年の大作だ。

新着コラム