あすか・夏
青々とした夏草の草原を、鳥の一群が渡る。
スケッチブックを抱え、険しい顔つきの青年が荒野を歩いている。米国の具象絵画を代表する画家、アンドリュー・ワイエス(1917~2009)が28歳の時の自画像だ。
ワイエスの描く風景は、いつも徒歩圏にあった。家の周囲を歩き、見慣れた景色に小さな変化を探し、心象風景として表現した。
生前のワイエスを知る高橋秀治館長は、曇った表情の理由を、米国屈指の挿絵画家で、明るい画風で知られた父との葛藤に見る。「ワイエスは、暗い色調で貧しいアフリカ系の隣人をありのまま描き、絵の師であった父から直すよう指導されました」。本作を描いた年、父は事故で急逝する。
死を身近に感じるようになったワイエスは、朽ちゆく家やその住人を描くようになった。彼の作品には、日本人が共感する無常観や死生観が見てとれると高橋さん。「本人も、日本では深く作品を理解してもらえると話していました」